生物の気配がなくなって久しい、地上から失われた大陸。
　しかしカカオ達が目指す場所……かつての災厄が封じられた地までの道のりは、決して平坦なものではなかった。

「ちょっと聞いてないよぉー！」

　非難めいたモカの、甲高い声が響く。
　それもそのはず、彼女は今多くの化物に囲まれていた。

「地面から生えてるアレ、魔物をぽこぽこ生み出すんだね……こりゃ、立ち止まっちゃいられなさそうだよ」
「止まっていたらあっと言う間に周りが魔物だらけになりそうですね」

　言いながらパンキッドとメリーゼがすかさずモカの周りの魔物を排除し始める。
　ちら、と目配せした先にあるのは地面から突き出た牙のような物体……ランシッドの話では、障気が結晶化したものらしい。

『この時代はあの出来事からそう経っていないはずだ。こんなに早く結晶が育つものなのか？』
「時空干渉の影響かもしれない……そういう事なのかしらね」
「どうでもいいけど埒が明かねー！　シーフォン、頼む！」
「えっ、僕かい？」

　カカオに指名されたシーフォンは一瞬戸惑うが、すぐに詠唱を始めたカカオの意図に気づく。
　見習い職人である彼が独自に編み出した術の特性、それは……

「宿れ、雷精の力……魍魎薙ぎ払う剣、彼の腕に電瞬の閃きを！」

　雷がシーフォンの周りに集まり、その身に纏われる。
　内側から弾けるような力を感じたシーフォンは、己の感覚に従い武器を取った。

「これは……ぶっ放せばいいんだね、カカオ？」
「ああ！」

　スリングショットの紐を思い切り引き絞り、マナをこめた弾を群れの中心めがけて放つ。
　いつにも増して速く飛んだ弾は空中で静止、どの魔物にも当たりはしなかったが、かわりに激しい雷を広範囲に炸裂させた。

「うわ、すごっ……シフォ兄じゃないみたい！」
「それは褒め言葉として受け取っておこう。まだまだいくよ！」

　‎一時的に雷のマナを付与され、高められた力で詠唱を必要としない広範囲の攻撃手段を得たシーフォンは、続けざまに魔物の数を減らしていく。
　属性付与の術は強力な反面効果時間が限られてしまうのだが、包囲網をこれでもかと抉り、突破口を開くには充分だった。

「みんな、急ぐぞ！」
「道を作るでござる！」

　ブオルとガレを先頭に、後方はカカオとメリーゼが守りながら。
　切り拓かれた道を、一行は必死に駆け抜けるのだった。