57~足下に眠る、失われた大地~
重苦しい空気に、視界の悪さ。
生まれ変わる世界に切り離された犠牲の大地、アラムンドは障気により生物の生きることができない地となっていた。
「何かしら……腕輪の力に守られているはずなのに、なんだか息苦しいわね」
「ドーカン。リュナンおじちゃんの時と同じような感じなのに……なんかヤなモンが“いる”って感じ……」
アングレーズとモカが不快を示す横で、さらに敏感なクローテとガレが鋭く目を細め、警戒に辺りを見回す。
「一応近くには気配はないが……うう、尻尾がぶわってするでござる」
「だな。悪寒が止まらない」
よく見れば二人の尻尾がいつもより膨らんでおり、この場所の異質さを伝えている。
「寒いならおじさんがあっためてやろうか?」
「ブオルどの……強張った顔で言うとちょっと怖いでござるよ」
「えっ、マジで!?」
場を和ませる冗談を言ったつもりのブオルでさえ、我知らず引き攣った表情を逆に指摘される形になる。
『アラムンド……こんな形で来ることになるとはね』
「お父様?」
『とにかく、蛍煌石の結界があるとはいえ長居は禁物だよ。テラを探そう』
静かに落ち着き払ったようでいて、微かに震える声。
遥か過去からの因縁がある分、ランシッドの胸中は複雑なようだ。
「それにしても、あちこちに生えてるアレは何だい? よくわからないけど、妙に不気味だねぇ」
パンキッドが指した先には……それ以外のあちこちにも、地面から突き出た鋭い岩のような物体があった。
「父上から聞いたことがあるよ。かつて王都に起きた異変……地中から生えた、障気を生み出す“牙”のことを」
「その話ならボクも聞いたよ。パパ達の旅で最初に解決した大きな事件……長い旅の始まりだったって」
そう続けたモカは、でもまあ、と切り替える。
「呑気に昔話してる場合じゃないよね。ボク達の力じゃこれだけの障気をどうにかできるワケじゃなし。それにこの後ちゃんとパパ達がなんとかしてくれたんだからさ」
『そう。テラは恐らく封印の結界の場所に向かっているか、既にもういるか……あっちの、より障気が濃い方だよ』
先が見えないほどの靄もそうだが、ランシッドが言う方角は心なしか牙の本数も多いように見える。
「あの先に、テラが……お母様もいるんですね」
『それに“総てに餓えし者”もだ。できればテラと接触せずに、そのまま眠っててほしいが……』
一歩、また一歩と足を進めるごとに本能に訴える危険信号が一行の肌をざわつかせる。
と、そんな時だった。
「!」
『メリーゼ?』
ふと足を止め、きょろきょろしだしたメリーゼを不思議に思ったランシッドが覗き込む。
「気のせい、かしら?」
『大丈夫かい? また何か視たんじゃ……』
「い、いえ、視てはいないのですが……すみません、先を急ぎましょう」
一度は首を傾げるものの、メリーゼは再び歩き出す。
仲間たちも続き、先が見えない不気味な靄の中へと身を投じていった。
生まれ変わる世界に切り離された犠牲の大地、アラムンドは障気により生物の生きることができない地となっていた。
「何かしら……腕輪の力に守られているはずなのに、なんだか息苦しいわね」
「ドーカン。リュナンおじちゃんの時と同じような感じなのに……なんかヤなモンが“いる”って感じ……」
アングレーズとモカが不快を示す横で、さらに敏感なクローテとガレが鋭く目を細め、警戒に辺りを見回す。
「一応近くには気配はないが……うう、尻尾がぶわってするでござる」
「だな。悪寒が止まらない」
よく見れば二人の尻尾がいつもより膨らんでおり、この場所の異質さを伝えている。
「寒いならおじさんがあっためてやろうか?」
「ブオルどの……強張った顔で言うとちょっと怖いでござるよ」
「えっ、マジで!?」
場を和ませる冗談を言ったつもりのブオルでさえ、我知らず引き攣った表情を逆に指摘される形になる。
『アラムンド……こんな形で来ることになるとはね』
「お父様?」
『とにかく、蛍煌石の結界があるとはいえ長居は禁物だよ。テラを探そう』
静かに落ち着き払ったようでいて、微かに震える声。
遥か過去からの因縁がある分、ランシッドの胸中は複雑なようだ。
「それにしても、あちこちに生えてるアレは何だい? よくわからないけど、妙に不気味だねぇ」
パンキッドが指した先には……それ以外のあちこちにも、地面から突き出た鋭い岩のような物体があった。
「父上から聞いたことがあるよ。かつて王都に起きた異変……地中から生えた、障気を生み出す“牙”のことを」
「その話ならボクも聞いたよ。パパ達の旅で最初に解決した大きな事件……長い旅の始まりだったって」
そう続けたモカは、でもまあ、と切り替える。
「呑気に昔話してる場合じゃないよね。ボク達の力じゃこれだけの障気をどうにかできるワケじゃなし。それにこの後ちゃんとパパ達がなんとかしてくれたんだからさ」
『そう。テラは恐らく封印の結界の場所に向かっているか、既にもういるか……あっちの、より障気が濃い方だよ』
先が見えないほどの靄もそうだが、ランシッドが言う方角は心なしか牙の本数も多いように見える。
「あの先に、テラが……お母様もいるんですね」
『それに“総てに餓えし者”もだ。できればテラと接触せずに、そのまま眠っててほしいが……』
一歩、また一歩と足を進めるごとに本能に訴える危険信号が一行の肌をざわつかせる。
と、そんな時だった。
「!」
『メリーゼ?』
ふと足を止め、きょろきょろしだしたメリーゼを不思議に思ったランシッドが覗き込む。
「気のせい、かしら?」
『大丈夫かい? また何か視たんじゃ……』
「い、いえ、視てはいないのですが……すみません、先を急ぎましょう」
一度は首を傾げるものの、メリーゼは再び歩き出す。
仲間たちも続き、先が見えない不気味な靄の中へと身を投じていった。