55~悪意は遥か過去へ~
『過去は過去だけど、どうやら今までとは違って飛ぶ時代が遠すぎるみたいだ。転移の準備に時間がかかる……ふたりが消滅しかかってて不安だろうけど、一晩待ってほしい』
時空の精霊にそう言われてしまえば従うほかなく、一行には思わぬ足止めとなってしまった。
「ダクワーズはランシッドと同じ、この世界がアラカルティアと呼ばれる前の時代の人間だ。いろいろあって現代に生きることになったが……まあ、そんな訳でそのくらい昔に飛ぶってことだろ」
「まぁ、それは大変そうねえ」
デューのざっくりした説明にアングレーズがあっさりとした反応を見せる。
普通ならとんでもないことなのだが、彼女自身未来からの来訪者だしブオルは逆に過去の人間。
何よりこれまでにいろいろなことがありすぎて、もう驚かなくなっていた。
「じゃあとりあえず自由行動にしようか。あーだこーだ考えるより、各々好きに過ごした方がいいだろう」
「さんせーい。ボクも久々に研究所に戻りたいし」
「僕も一度父上と話をしておこうかな。黙って出てきてしまったし」
暗くなり始めた空の下へ、それぞれが目的をもって散っていく。
だが、メリーゼだけは両親の前に佇んだまま、うつむいていた。
「……」
「メリーゼも行ってきなさい。こんな部屋に閉じこもっていたら、気が滅入ってしまうぞ」
「いえ、こんな姿ではみんなをびっくりさせてしまいますから」
彼女はそう言って、透けた手のひらを母に見せた。
「だったら庭で体を動かしてくればいい。あれこれ悩むより、気が紛れる」
『ダクワーズは俺と二人っきりになりたいんだからさ、ね?』
「ランシッド様は少し黙っていてください」
『……はい』
ふ、とメリーゼの表情が和らぐ。
いつもの両親のやりとり、いつもの空気……そして、気を紛らわせてくれようとしている優しさが、彼女を笑顔にした。
自分が消えてしまうかもしれない恐怖は、母だって同じはず……いや、思うように体が動かない今は、メリーゼよりもそれが大きいだろう。
だったら沈んでなどいられない、とメリーゼは二人に背を向け、ドアノブに手をかける。
『メリーゼ……』
「ありがとうございます。お母様のぶんも暴れてきますね」
『あ、ああ……行ってらっしゃい』
パタン、と扉が閉まり、足音が遠ざかるとランシッドは溜息を吐いた。
『暴れてくる、って……ほんと、君にそっくりだよね』
「何か問題でも?」
『いや、あははは……頼もしいことで何よりだなあ!』
睨むダクワーズに苦笑いで誤魔化すランシッド。
だが、直後ダクワーズの目から鋭さが消える。
「本当に、強くなりましたね。戦士としてだけでなく、心も……」
『ああ。ここまでの旅で、メリーゼは強くなったよ。それに、みんなもね』
最初は小さな、頼りない光だった。
そんな光が集まり、反応して、今でははっきりとその輝きが見える……“希望の光”が。
『ダクワーズ、今までごめん……ここからは一緒に戦おう』
「……はい。ずっと、その言葉をお待ちしておりました……ランシッド様」
ランシッドが差し出した手をとると、ダクワーズは柔らかく微笑んだ。
「私達を敵に回したこと、あのテラにたっぷりと後悔させてやりましょう……本当は剣をとって、直接戦いたいのですが」
『はは……こりゃ百人、いや、千人力だ』
やはり彼女も“戦士”だ……
臥せっていても変わらぬ瞳の強さ、闘志に、ランシッドは改めてそう思ったとか。
時空の精霊にそう言われてしまえば従うほかなく、一行には思わぬ足止めとなってしまった。
「ダクワーズはランシッドと同じ、この世界がアラカルティアと呼ばれる前の時代の人間だ。いろいろあって現代に生きることになったが……まあ、そんな訳でそのくらい昔に飛ぶってことだろ」
「まぁ、それは大変そうねえ」
デューのざっくりした説明にアングレーズがあっさりとした反応を見せる。
普通ならとんでもないことなのだが、彼女自身未来からの来訪者だしブオルは逆に過去の人間。
何よりこれまでにいろいろなことがありすぎて、もう驚かなくなっていた。
「じゃあとりあえず自由行動にしようか。あーだこーだ考えるより、各々好きに過ごした方がいいだろう」
「さんせーい。ボクも久々に研究所に戻りたいし」
「僕も一度父上と話をしておこうかな。黙って出てきてしまったし」
暗くなり始めた空の下へ、それぞれが目的をもって散っていく。
だが、メリーゼだけは両親の前に佇んだまま、うつむいていた。
「……」
「メリーゼも行ってきなさい。こんな部屋に閉じこもっていたら、気が滅入ってしまうぞ」
「いえ、こんな姿ではみんなをびっくりさせてしまいますから」
彼女はそう言って、透けた手のひらを母に見せた。
「だったら庭で体を動かしてくればいい。あれこれ悩むより、気が紛れる」
『ダクワーズは俺と二人っきりになりたいんだからさ、ね?』
「ランシッド様は少し黙っていてください」
『……はい』
ふ、とメリーゼの表情が和らぐ。
いつもの両親のやりとり、いつもの空気……そして、気を紛らわせてくれようとしている優しさが、彼女を笑顔にした。
自分が消えてしまうかもしれない恐怖は、母だって同じはず……いや、思うように体が動かない今は、メリーゼよりもそれが大きいだろう。
だったら沈んでなどいられない、とメリーゼは二人に背を向け、ドアノブに手をかける。
『メリーゼ……』
「ありがとうございます。お母様のぶんも暴れてきますね」
『あ、ああ……行ってらっしゃい』
パタン、と扉が閉まり、足音が遠ざかるとランシッドは溜息を吐いた。
『暴れてくる、って……ほんと、君にそっくりだよね』
「何か問題でも?」
『いや、あははは……頼もしいことで何よりだなあ!』
睨むダクワーズに苦笑いで誤魔化すランシッド。
だが、直後ダクワーズの目から鋭さが消える。
「本当に、強くなりましたね。戦士としてだけでなく、心も……」
『ああ。ここまでの旅で、メリーゼは強くなったよ。それに、みんなもね』
最初は小さな、頼りない光だった。
そんな光が集まり、反応して、今でははっきりとその輝きが見える……“希望の光”が。
『ダクワーズ、今までごめん……ここからは一緒に戦おう』
「……はい。ずっと、その言葉をお待ちしておりました……ランシッド様」
ランシッドが差し出した手をとると、ダクワーズは柔らかく微笑んだ。
「私達を敵に回したこと、あのテラにたっぷりと後悔させてやりましょう……本当は剣をとって、直接戦いたいのですが」
『はは……こりゃ百人、いや、千人力だ』
やはり彼女も“戦士”だ……
臥せっていても変わらぬ瞳の強さ、闘志に、ランシッドは改めてそう思ったとか。