54~黒騎士の心~

 隔離空間から戻ってきたカカオ達は、再びマーブラム城の赤い絨毯を踏み締める。
 彼らがいない間に魔物の侵入があったのだろうか、城内は更に荒れていたが……

「やあ、全員無事なようだね」
「おう、遅ぇぞ! もうオレ達で粗方片付けちまった!」
「王様、デュランダルさん!」

 広間の中心で互いの背を守るように立つトランシュとデューの手には剣。
 ふたりは多少の手傷こそ負っているものの、まだまだ余裕の表情で武器を収めた。

「あ、暴れましたね……」
「奥に非戦闘員を避難させてるんだ。ここで僕達が食い止めないと、みんなが危ないと思ってね」

 いい運動不足解消になったよ、と笑うトランシュはもともと優れた騎士で実力も確かだ。
 かつての仲間であり騎士団時代の同期でもあるデューとの共闘は、前線から離れて久しい王に戦いの感覚を取り戻させるのに充分だったようだ。

「よく言うぜ、楽しそうに大暴れして……一応守られなきゃいけない立場なんだから加減しろよな」
「ははは、同じように暴れていた君が言うのかい?」

 肩までの月白の髪をかき上げて爽やかに笑う王に、ああ似た者同士かと周囲の感想が一致する。
 あまりの緩んだ空気にカカオ達が呆然としていると、城の入口方面からドカドカと足音がなだれ込んできた。

「みんな、大丈夫!?」
「うわ、城ボロボロじゃん! って、パパにおじちゃん!」

 城下町を守るためほうぼうに散っていた仲間達が、戦いを終えて駆けつける。

「もうこちらに来て問題ないのか?」
「死者もなく、戦闘は無事終了したでござるよ」
「あとのことは騎士団に任せてくれって、その場にいた隊長さんが言ってたわ」

 だから来たのよとアングレーズは説明した。
 魔物さえ退治すれば王都のことは騎士団や王都の人間の仕事だ、と。

 そこまで言って、彼女の瞳はすっとブオルへと向けられる。

「……おじさまも、もう大丈夫そうね?」
「わかるのか?」
「ええ、なんとなくだけど……靄が晴れたみたいな、そんな感じがするわ」

 にっこりと、女神の微笑を見せるアングレーズ。

「靄が晴れた、か……そうだな、それに体が軽くなった感じがする」

 掌中の石を握り締め、ブオルは改めてそう口にした。
 過去から来たがゆえの己の運命と向き合う戦いから帰還した彼は、この時代に迷い込んだ当初に失ってしまった力も取り戻せたらしい。

「俺の問題は解決した。けど……」

 ちら、とブオルが振り返る。

 カーシスの最期の言葉と、突然苦しみだしたランシッド……状況はまだ、彼らを休ませてはくれない。
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