54~黒騎士の心~

 よく似た姿をした、異質のモノ。
 まるで光と影のように対照的なふたりが打ち合う光景は、どこか悲しくもあり……美しくもあった。

「ちっ……」

 激しい衝突からパッと退いて舌打ちを漏らしたのは影……黒騎士。
 巨漢ともいえる大柄な体に纏っていた魔物の皮膚でできた黒い鎧も今はほとんど残っておらず、顔や手足の表面を薄く覆うのみである。

「限界が近いのでしょうか……」
「そうだとしても、ブオル殿も同じだろうな」

 ブオルの想いを汲んで、手出しはせず見守る若者たちは我知らず拳に力をこめた。

「……終わりにしようぜ、兄弟」
「そうだな……」

 あんた、辛そうだもんな。

 ブオルはその言葉を飲み込み、すっと黒騎士を見据えた。
 そして互いに姿勢を低くすると一瞬の溜めから一気に加速し、

「だぁぁっ!」

 斬撃が、交差した。

「……くっ」

 全員に緊張が走る中、ややあってブオルが膝をつき、

「ぐ、お……」

 どう、と黒騎士が巨体を横たえた。

「お、終わっ、た……?」
「ブオルさんっ!」

 俯くブオルに仲間たちが駆け寄り、次いで黒騎士の方に視線を送る。
 嘘みたいに静まり返った中で、黒騎士はぴくりと動き、仰向けに転がった。

「……くっ、はははは……負けたよ、完全に俺の負けだ」

 もはや起き上がることのないその体は端からゆっくりと光の粒になっていき、終わりを迎えようとしていた。

「ッ!」
「はは……悪ぃな、自分が消えてくとこなんて、気分の良いもんでもなかろうに」

 宿敵をこの手で打ち倒したはずのブオルは悲痛に顔を歪めた。
 それとは逆に力なく笑う黒騎士は毒気も抜けて、どことなく満足げだ。

「お前さん、最初からこうなるのわかって……」
「バカ言うなよ。文字通りの化物相手に、ただの人間が普通に勝てるとでも? 最低でも一人二人……いや、全員この手で潰してやるつもりだったさ」

 ふわ、とブオルの体が軽くなる。
 見ればクローテが治癒術で痛みを取り除き、そして何か言いたげな顔をしていた。

「ブオル殿……」
「……ああ、ありがとな。少しだけあいつと話をしてくる」

 そう言うと仲間たちに哀しげに微笑みかけるブオル。
 彼の胸中は今、なんともいえない感情が入り交じって複雑な色をしていた。
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