5~時の迷い子~
「ブオル子さ……ブオル・ティシエール……確か、お祖父様が父のように慕っていたという、五十年ほど昔の騎士団長では?」
『時空をこえて来たってこと……? 俺、何もしてないのに……』
人違いでなければ、本来ここにはいないはずの人物ではとトランシュは祖父とその隣の大男を見遣る。
これだけの特徴的な容姿が二人といるとは思えないが、時空の精霊であるランシッドも同様に驚いているところを見ると、彼の預かり知らぬところで起きたことらしい。
「どうやら気が付いたらここにいたらしくてな、その辺をうろつかれると騎士達がさっきみたいな反応で怖がって大騒ぎするから連れて来た」
「あの肖像画をさっさと下げてたらここまでめんどくさいことにならなかったと思いますけど」
なんでこんな未来まで晒されてるんですか、と睨むブオルから目をそらしたモラセスは、俺は面白かったがなと呟いた。
などと主従漫才が繰り広げられる中で、
「ブオル、ひいおじいさま……」
「へ?」
華奢で小柄なクローテが、自分とは似ても似つかないブオルをきょとんと見上げていた。
「あちゃー……マジか、お前リィムかフレスの息子?」
「……はい。フレスの息子、クローテです」
「その耳と尻尾……母親は聖依獣、ってことか。俺の知ってるフレスはまだ赤ん坊なんだけど、そうか嫁さん見付けられたか……」
思わぬところで孫の将来を知っちまったな、とブオルは嬉しいながらも気まずそうに頬をかく。
しかし一方でモラセスとランシッドはこそこそと耳打ちをし、
「というかランシッド、過去の人間がこんな未来を知って大丈夫なのか?」
『あんま良くないね……記憶を消してさっさと戻ってもらいたいところだよ』
「ちょっとなんか不穏な発言が聞こえたんだけどそこの二人! ていうかさっきから気になってたんだけどそっちの人ちょっと浮いてない!? 物理的に!」
耳打ちが意味を成さずむしろ聞こえよがしに聞き捨てならない話を繰り広げる元王様達にたまらずツッコミを入れるブオル。
「ブオルおじちゃん、振り回される方のひとだぁ……」
「ってか、話が進まねーんだけど……」
呆れる若人達に気付くと、ランシッドは咳払いをひとつしてブオルに向き直る。
『俺は時空の精霊“時の調律者”……って言っても生前はうんと昔にここで王様やってたランシッドっていって、みんなその名前で呼ぶんだけどさ』
「ランシッドって歴史書にも載ってる初代の王、ランシッド様……!?」
『そう、それ。まあそれはさておき、今この世界ではとんでもないことが起きているんだ』
ランシッドは驚くブオルに今この時代から二十年前に世界を救った英雄達がいること、そして何者かにより彼等が狙われ、時空干渉が起きていること。
そして……
『……これは推測だけど、ブオルがこの時代に迷いこんだのは今回の事件の影響で時空の壁が薄くなり、綻びが生じたせいだと思うんだ』
五十年前の人間であるブオルがどうして今ここにいるのかを彼に説明した。
「なら、彼以外にも転移してきてしまった者がいる可能性が……」
トランシュの言葉には『あるだろうね』と頷いて。
ここまでの話を黙って聞いていたブオルは、難しそうな顔で俯く。
「時空の精霊だの英雄だの、話がブッ飛び過ぎてまだ頭が追い付いていないが……ひとつわかったことがあります」
「なんだ?」
「モラセス様、私にこの子達の保護者やれってんでしょ?」
「よくわかったな」
しれっと答える老いた主人に、やっぱり、とブオルは肩を落とした。
『時空をこえて来たってこと……? 俺、何もしてないのに……』
人違いでなければ、本来ここにはいないはずの人物ではとトランシュは祖父とその隣の大男を見遣る。
これだけの特徴的な容姿が二人といるとは思えないが、時空の精霊であるランシッドも同様に驚いているところを見ると、彼の預かり知らぬところで起きたことらしい。
「どうやら気が付いたらここにいたらしくてな、その辺をうろつかれると騎士達がさっきみたいな反応で怖がって大騒ぎするから連れて来た」
「あの肖像画をさっさと下げてたらここまでめんどくさいことにならなかったと思いますけど」
なんでこんな未来まで晒されてるんですか、と睨むブオルから目をそらしたモラセスは、俺は面白かったがなと呟いた。
などと主従漫才が繰り広げられる中で、
「ブオル、ひいおじいさま……」
「へ?」
華奢で小柄なクローテが、自分とは似ても似つかないブオルをきょとんと見上げていた。
「あちゃー……マジか、お前リィムかフレスの息子?」
「……はい。フレスの息子、クローテです」
「その耳と尻尾……母親は聖依獣、ってことか。俺の知ってるフレスはまだ赤ん坊なんだけど、そうか嫁さん見付けられたか……」
思わぬところで孫の将来を知っちまったな、とブオルは嬉しいながらも気まずそうに頬をかく。
しかし一方でモラセスとランシッドはこそこそと耳打ちをし、
「というかランシッド、過去の人間がこんな未来を知って大丈夫なのか?」
『あんま良くないね……記憶を消してさっさと戻ってもらいたいところだよ』
「ちょっとなんか不穏な発言が聞こえたんだけどそこの二人! ていうかさっきから気になってたんだけどそっちの人ちょっと浮いてない!? 物理的に!」
耳打ちが意味を成さずむしろ聞こえよがしに聞き捨てならない話を繰り広げる元王様達にたまらずツッコミを入れるブオル。
「ブオルおじちゃん、振り回される方のひとだぁ……」
「ってか、話が進まねーんだけど……」
呆れる若人達に気付くと、ランシッドは咳払いをひとつしてブオルに向き直る。
『俺は時空の精霊“時の調律者”……って言っても生前はうんと昔にここで王様やってたランシッドっていって、みんなその名前で呼ぶんだけどさ』
「ランシッドって歴史書にも載ってる初代の王、ランシッド様……!?」
『そう、それ。まあそれはさておき、今この世界ではとんでもないことが起きているんだ』
ランシッドは驚くブオルに今この時代から二十年前に世界を救った英雄達がいること、そして何者かにより彼等が狙われ、時空干渉が起きていること。
そして……
『……これは推測だけど、ブオルがこの時代に迷いこんだのは今回の事件の影響で時空の壁が薄くなり、綻びが生じたせいだと思うんだ』
五十年前の人間であるブオルがどうして今ここにいるのかを彼に説明した。
「なら、彼以外にも転移してきてしまった者がいる可能性が……」
トランシュの言葉には『あるだろうね』と頷いて。
ここまでの話を黙って聞いていたブオルは、難しそうな顔で俯く。
「時空の精霊だの英雄だの、話がブッ飛び過ぎてまだ頭が追い付いていないが……ひとつわかったことがあります」
「なんだ?」
「モラセス様、私にこの子達の保護者やれってんでしょ?」
「よくわかったな」
しれっと答える老いた主人に、やっぱり、とブオルは肩を落とした。