52~想い、背負って~

 パンキッドが呼び寄せた魔物の数はシーフォンの予想以上で、たった二人で相手をするには少しばかりキツいものだった。
 それでも、戦い慣れたパンキッドが暴れ回り、シーフォンがそれを後方からサポートすることで一匹ずつ確実に仕留めていく。

 そして……

「そいつでおしまいだよ、シーフォン!」
「まかせたまえ!」

 思い切り引き絞ったスリングショット……いわゆるパチンコの、マナをこめた弾が黒い魔物を撃ち抜く。
 この短時間ですっかり聞き慣れてしまった断末魔だが、それでも耳を突く不快感にシーフォンが顔をしかめた。

「……やれやれ、とんでもない目に遭った」
「開けた場所に集めて一気に片付けられたら楽なんじゃないかって、アンタが言ったんだろ?」
「こんなにいるとは思っていなかったからね!」

 すっかり余裕をなくし満身創痍のシーフォンがそう言い返すと、パンキッドは同じく傷だらけの体でけらけらと笑う。

「アンタ、そっちの方がいいよ」
「なに?」
「キザったらしくすましてるより、よっぽど似合ってるって言ったのさ」
「……!」

 言われて初めて、シーフォンは己の肩から力が抜けていることに気づく。
 生まれながらの王族であるにも関わらず、飾らず、背伸びをせず、年頃相応の今の自分をだらしないとかみっともないとは不思議と感じなかった。

(これが“仲間”になるということ、なのだろうか)

 単純に、戦闘の連携だけの話ではない。
 心を通わせ、繋がる……つい最近までのように、メリーゼだけを追いかけ、見つめていては決してできなかったこと。

「君は変な奴だな」
「そうかもね? まあ魔物呼んだりするし」
「それは……ただの特技だろう。そうでなくて、内面の話だ」
「はーん? ま、どうでもいいさね」
「どうでもいい、か……はは、そうだな。どうでもいい」

 魔物の気配も消えた空き地で、王子の笑い声が響く。
 清々しく、晴れやかで、何かに吹っ切れたような爽やかな笑い。

「君のおかげで、大好きな王都を、城下町の人々を巻き込まずに戦うことができた……礼を言う、パンキッド」

 その笑顔に、今度はパンキッドがキョトンとする側になった。

「な、なんだい、急に?」
「いや、ただ伝えるべき時に伝えた方がいいかと思ったんだが……」

 シーフォンはそう言うと、ずいっと彼女の顔を覗き込み、まじまじと見つめる。

「……照れているのかい? 君にも恥じらいというものがあったんだね」
「うっ、うるさいよ!」

 その一言でサッと頬を赤らめたパンキッドは、思わずシーフォンの整った顔をひっぱたくのだった。
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