52~想い、背負って~

 混乱の王都を駆け抜ける影があった。
 それなりに広く入り組んだ城下町を、迷いなくすり抜けていくのは英雄王の息子、シーフォン王子。
 彼より少し遅れて……というよりも彼が選ぶ道を信じて、ついて来ているのがパンキッドだった。

「ずんずん進むねえ」
「この城下町は僕の庭みたいなものだからね。何せ、幾度となく城を抜け出して遊びに来たからさ!」
「威張ることかい、そりゃ」

 自慢げな王子に「お城の人に謝っときなよ」と呆れるパンキッド。
 それでも今回はそのシーフォンの土地勘が役に立つのだから、あまり強くは言えないのだが。

「……ほら、ここでいいかい?」
「!」

 そうこうしているうちに細い路地は終わり、開けた場所に出た。
 城下町の華やかさ、賑やかさから離れた、これといって何もない空き地だ。

「へえ、王都にこんな場所があったなんて……」
「子供の頃よく遊び場にしてたんだ。城下町の子達に混ざって、ごっこ遊びなんてしたものだよ」

 城下町でも公園のような扱いなのだろうそこをパンキッドは値踏みするように見渡した。
 広さは申し分なく、障害物もない……これならば。

「……よし。それじゃシーフォン、ちょっとびっくりさせちまうと思うけど……」
「戦いやすい場所で魔物を誘き寄せる、だったね。どうやるんだい?」

 瞬間。

「うあああああああああああああッ!」
「ッ!?」

 空気ごと、この身が震えるような咆哮にシーフォンは目を見開いた。
 天を仰ぎ吼えるパンキッドの眼はギラギラと獣のようで、そしてその叫びは、

―アタシは強い!―

―腰抜け魔物ども、まとめてかかってきな!―

 言葉にこそなっていないものの、そんな響きをもっていた。

「……ふう」
「い、今のは……?」

 ややあって脱力したパンキッドにシーフォンがおそるおそる尋ねる。

「父さん譲りらしいけど、アタシには生まれつき変わった特技があってね。魔物とある程度意思疎通ができるんだ」
「意思疎通……」
「凶暴なヤツや災厄の眷属相手じゃ友好的にとはいかないけどね。それでもこうやって意思を発信すれば格下の相手と不要な戦闘を避けたり、逆に今みたいに……」

 ざわ、と周囲の空気が動く。
 気づけばふたりを取り囲むように、黒い魔物が集まってきていた。

「……挑発して引き寄せることもできる。囮役には最適だろ?」
「なるほど……素敵な特技だね」

 シーフォン達はそれぞれ武器を取り出すと、同時に動きだした。
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