51~王都の戦い~

 アラカルティアの中心ともいえる場所、王都。
 その更に真ん中にある白き山、マーブラム城には人々の希望の象徴である英雄王ランスロット・ロイ・グランマニエ……二十年前の戦いではトランシュという名で騎士をしていた男がいる。

「やあ、ブオル子さん……ではないようだね。見た目はそっくりさんだが、かの人のような気品がまるでない。見た目にも少し老けているようだけど……ああ、そういうことか。悪趣味な真似をする」
「英雄王サマ直々に出向いてくださるたあ、光栄なこって」

 城の入口からすぐ、各所へと繋がる大広間にトランシュは自ら姿を現した。
 探す手間が省けたぜ、とブオルの姿を借りた黒騎士は口端を上げる。

「大切な臣下達を危険に晒すより、私が出た方がいいと思ってね」

 言いながら早くも剣を抜く英雄王。

「手っ取り早い方が俺も助かる」
「さてさて。果たして、手っ取り早く終わるかな?」

 カーマインの切れ長の目に、ぎらりとした光が宿る。
 日頃は気さくでにこやか、親しみやすい王だが、かつては死闘を乗り越えた戦士……何より、その身に流れる王家の血は意外と荒っぽいものである。

「デュランもフレスも最近忙しくて手合わせに付き合ってくれないし、政務ばかりですっかり体が鈍ってしまってね。僕と遊んでくれるかい?」

 深い紅の外套を勢い良く脱ぎ捨て、微笑むだけのトランシュだが、少しでも腕に覚えがある者なら彼の佇まいを見てすぐに仕掛けてはこられないだろう。

(こいつ、ニコニコしてやがるが……)

 黒騎士もトランシュの纏う空気の変化に気づいたようで、我知らず半歩ほど足を引いた。
 自分は強い人間の肉体を手に入れてそれを更に強化した、文字通り“人間離れ”な存在……人間の枠を出ない相手など、格下だと言えるのに。

「インドア派の優男かと思ったが、間違いだったみたいだな」
「一言もそんなこと言ってないからねえ。さて」

 トランシュは一歩進み出ると、ゆったりとした動きで構える。

「……“英雄王”の名を背負うということ、その覚悟……教えてあげるよ」

 その微笑みには、世界が背負われていた。
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