50~襲撃~

 この世界、アラカルティアを破壊しようとする異界の化物……“テラ”は悪趣味だ。
 英雄が、人々が紡いだ歴史を、最悪の形で破壊しようとする。
 そんなテラがカカオ達の仲間で過去の人間であるブオルの、そう遠くない未来に訪れた死を利用して新たな手駒を送り込んできた。

 それが未来のブオルの、戦死した後の肉体を災厄の眷属に操らせた“黒騎士”。

 しかしテラのやる事が単純な戦力増強と、黒騎士と対峙させることで精神的ダメージを与えるだけにとどまるだろうか、とランシッドは考えた。

『……王都が危ない』
「王都?」
『カレンズ村の時空干渉では、フレスや騎士達が守ろうとしていた村を滅ぼさせ、足止めをした彼らにその惨状を見せつけようとしていた。ブオルが守りたいものは何か?』

 風の大精霊もその言葉に続く。

『王都の人々だけに限りませんが、家族に主君……騎士として、ブオル様が守っていたものが王都にはたくさんありますね』
「それをわざわざ……肉体だけとはいえ、本人の手で壊させようってーのかよ」
『あの悪趣味な化物ならばやりかねんな』

 カカオが憤りに拳を握り締め、苦々しく舌打ちをする。
 宝剣の石に宿る源精霊が、声だけで同意した。

『もちろんこれは予想に過ぎない。デューやミレニアも王都に行っているはずだけど……』
「ボク達も向かった方がいいんじゃないかってコトだよね?」

 ああ、と時精霊の返答ははっきりしていた。

「……ブオルさんは、どう感じますか?」
「俺?」

 メリーゼに尋ねられ、ブオルは顎に手を置く。
 視線は斜め上で探るように彷徨い、やがて言葉を選び始めた。

「そうだな。そもそも、世界の中心であり英雄王がいる……王都はこのアラカルティアにとっては何重にも重要な意味をもつ場所だろう」

 そんな王都を英雄王ごと叩き潰せば、それだけでも“英雄”を憎むテラにとっては爽快だろうなとブオルは言う。

「派手な演出を好むテラのことだ。単純な嫌がらせ抜きにしても、次に狙うなら王都だと俺も思うよ」

 震える手を、もう片方の手で押さえながら。

「おっさん……」
「大丈夫だ……お前らがいるから」

 力を貸してほしい。

 静かに発せられた声に、仲間たちは頷き、応えた。
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