49~眠れない夜に~
アラカルティアの大地の下にあるらしい不思議な場所、聖依獣の隠れ里には空が存在しない。
宙に浮かぶ月はないが、上から降り注ぐ光のカーテンと遙か下の輝く海がちょうど夜にあたる時間にその光を弱めることで擬似的な夜の雰囲気を出しているようだ。
ここに客人が来るのは珍しいが、一応そういう時用の休憩場所があると長老のムースが貸してくれた建物内で、カカオ達は隠れ里の夜を過ごしていた。
……傷ついた心と身体を、休ませるために。
「俺……今とそう変わらなかったな……」
淡い光の幕がうっすらと降り、暗闇に佇むブオルを僅かに照らす。
自分と同じ姿をした敵……この時代からは過去でありブオルにとっては少し先からテラが連れて来た、ブオル自身の骸に災厄の眷属が取り憑いたモノ。
そんなものと対峙してしまって動揺が隠せず、心配する仲間達からそっと離れて彼はひとり頭を冷やしていた。
そのまま眠れず、夜は更けていくばかり。
(あー……わかっちゃいたつもり、だったんだが……)
多少は老けて肉も落ちているがあの姿、もしかしたら今の自分と十歳も違わないのではないか。
魔物の皮膚による黒い鎧で外傷はわからないが、それでも自分の最期について考えを巡らせてしまう。
と、
『ひとりでいたら危ないよ』
「……ランシッド様」
思い悩む彼の前に音もなく現れたのは、それもそのはず、実体のない存在。
時空を司る精霊であり、かつてはグランマニエの王でもあったランシッドだ。
『やっぱり、いくらブオルでもキツいよね。いつも明るく朗らかな君が、ひどい顔をしている』
「…………」
生前の若かりし頃の姿に精霊の衣を纏った青年は、ふわりとその身をブオルの横に滑らせた。
「ランシッド様、俺は……」
『ブオル、話があるんだ』
どことなくブオルの主を思い出させる茜色の目は、真っ直ぐに見つめてきて、
『君を元の時代に……記憶を消して、帰そうと思う』
「――ッ!」
そして、そう告げると一瞬、哀しげに揺れるのだった。
宙に浮かぶ月はないが、上から降り注ぐ光のカーテンと遙か下の輝く海がちょうど夜にあたる時間にその光を弱めることで擬似的な夜の雰囲気を出しているようだ。
ここに客人が来るのは珍しいが、一応そういう時用の休憩場所があると長老のムースが貸してくれた建物内で、カカオ達は隠れ里の夜を過ごしていた。
……傷ついた心と身体を、休ませるために。
「俺……今とそう変わらなかったな……」
淡い光の幕がうっすらと降り、暗闇に佇むブオルを僅かに照らす。
自分と同じ姿をした敵……この時代からは過去でありブオルにとっては少し先からテラが連れて来た、ブオル自身の骸に災厄の眷属が取り憑いたモノ。
そんなものと対峙してしまって動揺が隠せず、心配する仲間達からそっと離れて彼はひとり頭を冷やしていた。
そのまま眠れず、夜は更けていくばかり。
(あー……わかっちゃいたつもり、だったんだが……)
多少は老けて肉も落ちているがあの姿、もしかしたら今の自分と十歳も違わないのではないか。
魔物の皮膚による黒い鎧で外傷はわからないが、それでも自分の最期について考えを巡らせてしまう。
と、
『ひとりでいたら危ないよ』
「……ランシッド様」
思い悩む彼の前に音もなく現れたのは、それもそのはず、実体のない存在。
時空を司る精霊であり、かつてはグランマニエの王でもあったランシッドだ。
『やっぱり、いくらブオルでもキツいよね。いつも明るく朗らかな君が、ひどい顔をしている』
「…………」
生前の若かりし頃の姿に精霊の衣を纏った青年は、ふわりとその身をブオルの横に滑らせた。
「ランシッド様、俺は……」
『ブオル、話があるんだ』
どことなくブオルの主を思い出させる茜色の目は、真っ直ぐに見つめてきて、
『君を元の時代に……記憶を消して、帰そうと思う』
「――ッ!」
そして、そう告げると一瞬、哀しげに揺れるのだった。