4~決意、刃に乗せて~
「みんな、無事だったんだね……!」
現代、マーブラム城にあるトランシュの部屋に戻ったカカオ達は元通りになったトランシュとフローレットに迎えられ、ほっと胸を撫で下ろした。
「時空干渉とやらはどうにかできたみたいだね。少し前から僕とフローレットの体が透けなくなったよ」
「トランシュからだいたいの話は聞いたわ。危険なことなのに、本当にありがとう……」
優しげな、けれども心配の滲み出る顔でフローレットが微笑みかけ、次いで小さな姪を抱き締めた。
「どこも怪我はない? もうこんなことしちゃダメよ」
「おばちゃん……」
品の良い香りと温もりに包まれ、モカは知らず強張っていた体が解れていくのを感じるが、
「……ごめん。それ、無理だ」
その口から発した声は、いつになく低いものだった。
「けど、」
「一度や二度ボク達の力が通じたからって調子に乗ってる訳じゃない。カカオ兄ちゃんもメリーゼ姉も、クロ兄だってたぶん同じ気持ちだよね?」
ねぇ、カカオ兄ちゃん?
モカは三人の中でも特に“そう”であろうカカオに同意を求めた。
すると彼は沈痛な面持ちで俯き、静かに口を開く。
「……目の前で、大切な人が消えそうになる光景は怖かった。一瞬フッと、最初からいなかったような気がしちまう時もあったんだ」
時空干渉を受けるのは今のところ二十年前の時代で、その頃カカオ達はまだ生まれていない。
だからその時代で消されてしまった人物は、彼等にとっては“出逢うことのなかった”ものになるのだ。
自分がよく知っているはずの大好きな祖父とその思い出がなかったことになろうとしている感覚が、カカオには全身から血の気が引いていくような寒さに思えた。
「時空干渉は受ける本人が自力でどうにかは出来ないものなんだろ。世界がどうの歴史がどうのなんて大層な話を今の俺なんかが語れやしないけど……」
けど、と一呼吸おいて、カカオはキッと顔を上げる。
「少なくとも身近で大切な人を守りたいって想い、じっとしてられない気持ちは抑えられねーよ!」
ここまで言って、真っ直ぐな翠の目を向けて、ややあって「……です」と申し訳程度に付け足すところはいまひとつ締まらないが、
「……英雄、か」
聴こえるか聴こえないかくらいのトランシュの呟きは、クローテの耳が拾った。
「気持ちはよくわかったよ。けどやっぱり、はっきり言って君達じゃ力不足だ。せめて誰か……」
「保護者でも必要か、この無鉄砲なガキ共にはな」
「えっ……!?」
ふいに部屋の出入り口からかけられた声に一同が振り向き、視線が集まる。
そこにいたのは……
「モラセスお祖父様……!」
「なるほど、こいつがガトーの言ってた孫だな」
いつからいたのだろうか、壁に背を預け尊大に腕組みをしていた白髪赤目の老人……先王モラセスは、カカオ達の顔を一通り見ると片側の口の端を上げた。
現代、マーブラム城にあるトランシュの部屋に戻ったカカオ達は元通りになったトランシュとフローレットに迎えられ、ほっと胸を撫で下ろした。
「時空干渉とやらはどうにかできたみたいだね。少し前から僕とフローレットの体が透けなくなったよ」
「トランシュからだいたいの話は聞いたわ。危険なことなのに、本当にありがとう……」
優しげな、けれども心配の滲み出る顔でフローレットが微笑みかけ、次いで小さな姪を抱き締めた。
「どこも怪我はない? もうこんなことしちゃダメよ」
「おばちゃん……」
品の良い香りと温もりに包まれ、モカは知らず強張っていた体が解れていくのを感じるが、
「……ごめん。それ、無理だ」
その口から発した声は、いつになく低いものだった。
「けど、」
「一度や二度ボク達の力が通じたからって調子に乗ってる訳じゃない。カカオ兄ちゃんもメリーゼ姉も、クロ兄だってたぶん同じ気持ちだよね?」
ねぇ、カカオ兄ちゃん?
モカは三人の中でも特に“そう”であろうカカオに同意を求めた。
すると彼は沈痛な面持ちで俯き、静かに口を開く。
「……目の前で、大切な人が消えそうになる光景は怖かった。一瞬フッと、最初からいなかったような気がしちまう時もあったんだ」
時空干渉を受けるのは今のところ二十年前の時代で、その頃カカオ達はまだ生まれていない。
だからその時代で消されてしまった人物は、彼等にとっては“出逢うことのなかった”ものになるのだ。
自分がよく知っているはずの大好きな祖父とその思い出がなかったことになろうとしている感覚が、カカオには全身から血の気が引いていくような寒さに思えた。
「時空干渉は受ける本人が自力でどうにかは出来ないものなんだろ。世界がどうの歴史がどうのなんて大層な話を今の俺なんかが語れやしないけど……」
けど、と一呼吸おいて、カカオはキッと顔を上げる。
「少なくとも身近で大切な人を守りたいって想い、じっとしてられない気持ちは抑えられねーよ!」
ここまで言って、真っ直ぐな翠の目を向けて、ややあって「……です」と申し訳程度に付け足すところはいまひとつ締まらないが、
「……英雄、か」
聴こえるか聴こえないかくらいのトランシュの呟きは、クローテの耳が拾った。
「気持ちはよくわかったよ。けどやっぱり、はっきり言って君達じゃ力不足だ。せめて誰か……」
「保護者でも必要か、この無鉄砲なガキ共にはな」
「えっ……!?」
ふいに部屋の出入り口からかけられた声に一同が振り向き、視線が集まる。
そこにいたのは……
「モラセスお祖父様……!」
「なるほど、こいつがガトーの言ってた孫だな」
いつからいたのだろうか、壁に背を預け尊大に腕組みをしていた白髪赤目の老人……先王モラセスは、カカオ達の顔を一通り見ると片側の口の端を上げた。