44~命は続く~

「あ、カネル! ガレさん起きた?」
「ああ、たった今な」

 そう言って現れたのは、カネルと同じ色の髪と目をした女性だった。

「ガレさん、体の具合はどうですか? 何か食べたいものとかありますか!」
「え、えーと……どちらさまでござるか?」

 きょとんとするガレに女性は慌てて、

「あっ、ごめんなさい! 私はシナモン。村の学校の職員で、カネルとはふたごのきょうだいなんです」

 そう自己紹介した。
 どことなくカネルと似ているのはそういうことか、と納得するガレだったが、

「すっげー! ほんとに同じ耳としっぽだー!」
「ほんとだー! あっちのおねーちゃんもだー!」

 突如シナモンの陰から飛び出したちびっこふたりに突撃され、にゃあと悲鳴をあげてしまう。

「こっ、今度はなんでござる!?」
「こら、ソルト、シュガ! お兄ちゃんは病人なんだから、騒いじゃダメよ!」
「そうだぞふたりとも。そっちにも寝てる奴いるんだから、静かにな」

 ガレの前でぴょんこぴょんこと嬉しそうに跳ねる子供たち、ソルトとシュガはよく見ればガレと同じように獣の耳と尻尾を生やしている。
 ふたりに注意されてふさふさの尻尾をしょんぼりさせながらも「はぁい」とおとなしくなるところを見ると、素直で聞き分けも良いようだ。

「うぅ……」
「あ、クローテどの!」

 元気な声にさすがに起きてしまったようで、クローテがソファから起き上がる。
 ほらな、とカネルが言うと、シナモンに連れられてちびっこ達は退出した。

「カネルどの、今の子達は……」
「シナモンの子供たちだ。おまえらの話を聞いて会ってみたくなったんだろうな」

 カネルの言葉にガレはふと、自分の幼い頃を思い出す。
 聖依獣と人間の狭間に生まれた自分は周囲とは違う姿をしていて……少々特殊な環境であるマンジュの里ではそこにわざわざ触れられることはなかったが、どうして他の人には尻尾がないのだろうと不思議に思ったことはあった。
 もし当時のガレが自分と“同じ”者がいると聞いたら、会ってみたいと思っただろう。

「世界があるから、命は続いていく……」
「え?」
「……いや、当たり前のことなんだけどな。ふとそう思ったっていうか……世界や命を守った奴がいるから、当たり前のようにみんな生きてるんだなって」

 それはかつてガレに助けられたクローテも、そして今のガレ自身にも言えることだ。
 しみじみと呟くと、カネルは静かに立ち上がる。

「それじゃ、俺はカカオ達にお前が目を覚ましたってしらせてくる」

 ごゆっくり、と笑って、青年騎士は部屋を立ち去った。
 残されたのはガレと、ようやく覚醒してきたクローテのふたりだけ。

 一瞬、沈黙の間が流れ、ややあって。

「ガレ」
「ふゃいっ、お、起きたでござるか……?」
「……おかえり」

 起き抜けのまだ少しとろんとした目で、クローテが微笑みかける。

「ただいま、でござる」

 ガレもつられて、ふにゃりと気の抜けた笑みを返した。
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