44~命は続く~

 ガレが目を覚ました時、やわらかなベッドの上にいた。
 風にふわり翻るカーテンの隙間から零れる陽は夕方の色をして、ぼんやりした意識に少しずつ働きかける。

(生きてる……体も、思う通りに動く……)

 長い間テラの術で操られていたガレは、布団の下で大きな猫の手を開いたり身動ぎして、体の自由を確かめた。
 次いでゆっくりと上体を起こすと、足元で突っ伏して眠るクローテの姿を見つける。
 長い睫毛を伏せてかたく瞼を閉ざし、静かに寝息を立てて……ガレが起きた気配に反応もしないのは、よほど疲れているのだろうか。

「そいつ、ずっとお前につきっきりでさ。今さっき寝落ちしたんだ」

 赤茶色の髪の青年が毛布を手にやって来て、クローテをソファに寝かせた。
 誰だろう、なんて見つめていると、青年もそれに気づく。

「ああ、ここはシブースト村だ。んで俺はここで警備の騎士やってるカネル。この村出身なんだ」
「カネルどの……皆は?」
「昨日のこと、全然覚えてないよな? とりあえずお前が回復するまでそれぞれ自由行動してるよ」

 昨日、という言葉と現在の時刻を考えれば、少なくとも一日はシブースト村に留まっているようだ。
 もう出発するには遅い時間だろうから、さらにもう一晩……それを聞いたガレが沈んだ顔で俯く。

「……力になるどころか、足を引っ張ってしまったでござるな」

 そんなことを口走れば、カネルが何故か笑みを綻ばせる。

「いや、ホントにこいつの言ってたとおりのことを言うんだなって」
「えっ、クローテどのが?」
「たぶん目覚めて状況を知ったら落ち込むだろうって。足を引っ張ってるなんて馬鹿なことを言い出したら、頬をつねってやるんだって」

 今はすやすやと眠っているクローテに見事に言い当てられていて、ガレは目を見開く。

「……あとお前、こいつの命の恩人なんだって? 足引っ張ってなんかないだろ。それどころか守ったんだから」

 言いながらカネルは懐から、彼が身につけるとは思えないような白銀の仮面を取り出してじっと見つめる。

「誰かを守れたって、すげえことなんだよ。そんなすげえことをやりたくて、俺も騎士の道を選んだんだ」

 まだまだあの人みたいにうまくはやれないけどな、なんて言うカネルには憧れる人物がいるのだろう。

 陽の光を受けて煌めく仮面が、ガレには少し眩しく見えた。
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