43~祈りよ、届け~

 ずっとテラに体の自由を奪われていたガレは、解放されたもののひどく消耗していた。
 一行は学校内にある一室のベッドに彼を休ませると、突然の乱入者達に向き直る。

「まさかデューがシーフォンと来ていたとはのう」
「ああ。久しぶりに寄ったシブーストが大騒ぎになってて、びっくりしたぜ」

 ミレニアとデュー、夫婦が揃ってもそこに特に甘い雰囲気は生まれない。
 二十年前の旅で芽生えた絆は仲間としての信頼関係……娘のモカが言うには、その延長線からなんとなく一緒になったらしい。
 傍にいて無理がなく、何でも楽しめる気安さがこのふたりの距離感だ、とも付け足して。

「やっとメリーゼに会えたと思ったら、とんだ事件だったね」

 前髪をかき上げながらメリーゼに流し目を送るシーフォンを、パンキッドがちらりと見る。

「……で、誰? この坊ちゃん」
「だっ、誰が坊ちゃんだと!? こちらからすれば以前はメリーゼの仲間にいなかった君こそ誰だ!」

 いきなり坊ちゃん呼ばわりされたシーフォンはパンキッドに食ってかかるが、ブオルに「まあまあ」と穏やかに仲裁された。

『パンキッド、シーフォン王子は英雄王の息子で君達の両親はお互いに友人関係にあるんだよ』
「ふーん、そうなの」
「なんだその興味なさそうな返しは!?」
「弱そうなヤツには興味ないからねー……正直、事情が事情でも説明もなしにいきなりガレに斬りかかったのはいい気しないしさ」

 こっちは肝が冷えたんだからね、と言われればもっともで、シーフォンは言葉を詰まらせる。

「それはっ……説明する時間がなかったとはいえ、すまなかった。僕も訳がわからず精霊王の言葉に従うしかなかったんだ」
「ありゃ、意外と素直?」
『頭を下げるべきところで下げられねば、王の器にはなれんからな』

 と、宝剣の柄を飾る石から男の声がして、煙のようなものが噴き出す。
 煙はみるみる人の形になり、橙のグラデーションがかった長い金髪に上半身裸、背には第三、第四の腕を生やした男性……精霊が姿を現した。

「な、なんだ……? 剣から金髪半裸マッチョが……」
『この逞しくも美しい肉体に釘付けか、娘。いいだろう存分に讃えるが良い!』
「なんか濃い奴出てきたんだけど!?」

 初対面でいろいろと濃さを目の当たりにしたカカオ達に『その濃い奴が俺達精霊を束ねる精霊王だよ……』とランシッドの説明が入る。

 精霊王の登場で一気に騒がしくなり、せっかく休ませたガレがうなされてはいないだろうか、とメリーゼやクローテがベッドに視線を移した。
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