43~祈りよ、届け~
「さて、ガレを助けるのはいいがどうしたものか……」
「クロ兄の術で解呪できないって、テラが施した術はよっぽど強力ってこと?」
モカの疑問に、いや、と声を発したのはランシッドだった。
『恐らくだけど、テラの術はこの世界のものと異界のものが混ざっているんじゃないかな……ガレの首に刻まれた紋から、異質な力を感じるんだ』
「だから、私の術が完全には効かなかったと……?」
『ある程度は作用したみたいだけどね。最後の鍵穴が違う、といった感じなら伝わるかな』
当初より弱まった術式の紋がガレの首筋で妖しく光る。
ふらついた動きで苦しげに武器を振り回すガレを、どうにか止めることはできないだろうか。
「さっきまでは掴まえられなかったけど、今の動きだったら俺が取り押さえれば……」
「ブオルどの、危険でござる! 手足を封じても、ブレスがあるでござるよ! 至近距離でまともに食らったらいくらブオルどのでも……」
「っと、そうか……お前さん、なかなか手強いなあ」
もう一歩、あと一歩なのに届かない。
カカオ達としては多少の手傷を負うのは覚悟の上だが、仲間を傷つけたくないと訴えるガレの意識をわざわざ残してあるのは悪趣味でタチが悪く思えた。
「大掛かりなゴーレムの召喚は連発できないし、隙を突けたのはたぶん一度きりね」
「警戒されるだろうな……私も、あの仕掛けが二度通用するとは思えない」
「じゃあどうすればいいのさ!?」
再び手詰まりかと思った、その時だった。
「そこを退けぇっ!」
どこからともなく聴こえた声に、全員の動きが止まる。
避難させた村の人間やミレニアでもない、突然現れた影は……
「でやあぁぁぁぁぁ!」
ものすごい勢いでこちらに突進してきたかと思えば、手にした大剣で、思い切りガレの首に斬りつけた。
「あ……」
「ガレっ!」
ぐらり、傾いだ青年の体は近くにいたブオルが受け止める。
「なっ、お前は……」
「シーフォン王子……!?」
ガレを斬ったのは英雄王の息子、シーフォン王子だった。
肩までの月白の髪を、マントをなびかせて着地する王子の姿が、いやにスローにカカオ達の目に映る。
「ヒーローは遅れてやって来る、ってね。どうにか間に合ったようだね、メリー……」
「貴様、自分が何をしたかわかっているのか……?」
「えっ」
すかさずメリーゼの元に向かおうとしたシーフォンの胸倉に掴みかかるクローテ。
「どうしてこんなことをした!? ガレは大切な仲間でっ……!」
「……君がそんな風に激昂するとはね、クローテ」
「なんだと!?」
よく見たまえ、と視線でガレの方へ促すと、シーフォンはクローテの手を放させた。
剣で斬りつけられたはずのガレは意識を失いぐったりしているものの、その首筋に傷ひとつない。
「僕が斬ったのは、あの男を縛る術式の糸だ」
「なに……?」
「ここでの話はだいたい聞かせてもらった。精霊王がね、万物を司る自分ならばこの剣で術式のみを斬れるって言ったんだよ」
そう言ったシーフォンの手にある剣はよく見れば豪奢な宝剣で、城の宝物庫で見たような気がする、とブオルが呟いた。
「聞かせてもらったって、今までどこに……」
混乱するカカオ達の前に、ゆっくりと足音が近づく。
水の大精霊を伴った壮年の騎士……王都騎士団の団長にして二十年前の英雄が一人、デューだ。
「水辺の乙女の盗み聞きがまた役に立ったな」
『もう、品のない言い方をなさらないでください』
彼らの姿を見た途端、カカオ達は一斉に脱力してその場にへたりこむのだった。
「クロ兄の術で解呪できないって、テラが施した術はよっぽど強力ってこと?」
モカの疑問に、いや、と声を発したのはランシッドだった。
『恐らくだけど、テラの術はこの世界のものと異界のものが混ざっているんじゃないかな……ガレの首に刻まれた紋から、異質な力を感じるんだ』
「だから、私の術が完全には効かなかったと……?」
『ある程度は作用したみたいだけどね。最後の鍵穴が違う、といった感じなら伝わるかな』
当初より弱まった術式の紋がガレの首筋で妖しく光る。
ふらついた動きで苦しげに武器を振り回すガレを、どうにか止めることはできないだろうか。
「さっきまでは掴まえられなかったけど、今の動きだったら俺が取り押さえれば……」
「ブオルどの、危険でござる! 手足を封じても、ブレスがあるでござるよ! 至近距離でまともに食らったらいくらブオルどのでも……」
「っと、そうか……お前さん、なかなか手強いなあ」
もう一歩、あと一歩なのに届かない。
カカオ達としては多少の手傷を負うのは覚悟の上だが、仲間を傷つけたくないと訴えるガレの意識をわざわざ残してあるのは悪趣味でタチが悪く思えた。
「大掛かりなゴーレムの召喚は連発できないし、隙を突けたのはたぶん一度きりね」
「警戒されるだろうな……私も、あの仕掛けが二度通用するとは思えない」
「じゃあどうすればいいのさ!?」
再び手詰まりかと思った、その時だった。
「そこを退けぇっ!」
どこからともなく聴こえた声に、全員の動きが止まる。
避難させた村の人間やミレニアでもない、突然現れた影は……
「でやあぁぁぁぁぁ!」
ものすごい勢いでこちらに突進してきたかと思えば、手にした大剣で、思い切りガレの首に斬りつけた。
「あ……」
「ガレっ!」
ぐらり、傾いだ青年の体は近くにいたブオルが受け止める。
「なっ、お前は……」
「シーフォン王子……!?」
ガレを斬ったのは英雄王の息子、シーフォン王子だった。
肩までの月白の髪を、マントをなびかせて着地する王子の姿が、いやにスローにカカオ達の目に映る。
「ヒーローは遅れてやって来る、ってね。どうにか間に合ったようだね、メリー……」
「貴様、自分が何をしたかわかっているのか……?」
「えっ」
すかさずメリーゼの元に向かおうとしたシーフォンの胸倉に掴みかかるクローテ。
「どうしてこんなことをした!? ガレは大切な仲間でっ……!」
「……君がそんな風に激昂するとはね、クローテ」
「なんだと!?」
よく見たまえ、と視線でガレの方へ促すと、シーフォンはクローテの手を放させた。
剣で斬りつけられたはずのガレは意識を失いぐったりしているものの、その首筋に傷ひとつない。
「僕が斬ったのは、あの男を縛る術式の糸だ」
「なに……?」
「ここでの話はだいたい聞かせてもらった。精霊王がね、万物を司る自分ならばこの剣で術式のみを斬れるって言ったんだよ」
そう言ったシーフォンの手にある剣はよく見れば豪奢な宝剣で、城の宝物庫で見たような気がする、とブオルが呟いた。
「聞かせてもらったって、今までどこに……」
混乱するカカオ達の前に、ゆっくりと足音が近づく。
水の大精霊を伴った壮年の騎士……王都騎士団の団長にして二十年前の英雄が一人、デューだ。
「水辺の乙女の盗み聞きがまた役に立ったな」
『もう、品のない言い方をなさらないでください』
彼らの姿を見た途端、カカオ達は一斉に脱力してその場にへたりこむのだった。