43~祈りよ、届け~
小さな村で繰り広げられる、拳と拳のぶつかり合い。
戦っているのはどちらも獣の耳と尾を生やした青年で、互いにその表情は険しい。
(速い……それにやはり、力では敵わないな……)
それでも、自分がやらなくては。
前衛には先程ガレが放った一撃のダメージが残っているし、後衛に術を唱える暇など当然与えてはくれないだろう。
自分と同じく速さに長けたメリーゼやパンキッドでも、加減をしていたら操られて強制的にリミッターを外されたガレの攻撃は捌ききれないかもしれない。
(特にメリーゼは優しすぎる。今のガレと戦うのは厳しいな……)
普段は後衛にいることが多く肉弾戦を行わないクローテだが、反応速度と身のこなしだけなら仲間の誰よりも上……ならば自分が、ガレの攻撃を一身に引き受けて隙を作ろう。
その方が効率的で、仲間も余計なダメージを負わなくて済むだろう……そう考えていたクローテの脳裏に、いつかのブオルやデューの言葉がよぎる。
(大丈夫……“犠牲”になど、なるつもりはありません。勿論、するつもりも)
幸い、単純な力こそ引き上げられているものの操られているガレの動きは単調なところがあるように思えた。
それならば隙を作るのも、案外不可能ではないのかもしれない。
大振りなガレの腕を軽く退いてかわすと、クローテは反動をつけてそのまま空中でくるりと回り、地面に片手をついてから更に後方に、誘うようにして跳ねる。
瞬間、ちらりとアングレーズに目配せをして。
「あ」
身軽な彼ならではの派手な動きに、カカオが思わず声を漏らす。
(そういうことか……)
アングレーズにもクローテの意図は伝わったようで、意識を集中させ始めた。
狙いはガレの現在地、ではなく……
「どうした、こんな奴一人にいつまで手こずっている?」
「っ……!」
挑発に乗せられるようにガレが地を蹴って加速し、一気に距離を詰める。
「少しだけ、我慢してくれ……ガレ」
クローテの口許が僅かに動き、そっとそう告げた。
「!」
ぶわ、と地面から旋風が巻き起こる。
そこはついさっきクローテが回避の動作で手を触れた位置……敵が近づくと発動するよう仕掛けた、魔術の応用技だ。
「今だ!」
「任せて!」
すかさずアングレーズが振り下ろした杖の鈴が、シャンと鳴り響く。
突然の風で怯んだガレの足元から、無数の腕が現れてガレの四肢を掴んだ。
「!?」
がっしりとしたそれは土でできており、ガレがいくら抵抗してもびくともしない。
「これ、ゴーレムの手……?」
「そ。あまり長くはもたないけど雷のブレスも効かないし拘束力は強いわ」
土人形を操る父親譲りのアングレーズの能力、それによる拘束……それがクローテが頼んだ、彼女だからできることだった。
戦っているのはどちらも獣の耳と尾を生やした青年で、互いにその表情は険しい。
(速い……それにやはり、力では敵わないな……)
それでも、自分がやらなくては。
前衛には先程ガレが放った一撃のダメージが残っているし、後衛に術を唱える暇など当然与えてはくれないだろう。
自分と同じく速さに長けたメリーゼやパンキッドでも、加減をしていたら操られて強制的にリミッターを外されたガレの攻撃は捌ききれないかもしれない。
(特にメリーゼは優しすぎる。今のガレと戦うのは厳しいな……)
普段は後衛にいることが多く肉弾戦を行わないクローテだが、反応速度と身のこなしだけなら仲間の誰よりも上……ならば自分が、ガレの攻撃を一身に引き受けて隙を作ろう。
その方が効率的で、仲間も余計なダメージを負わなくて済むだろう……そう考えていたクローテの脳裏に、いつかのブオルやデューの言葉がよぎる。
(大丈夫……“犠牲”になど、なるつもりはありません。勿論、するつもりも)
幸い、単純な力こそ引き上げられているものの操られているガレの動きは単調なところがあるように思えた。
それならば隙を作るのも、案外不可能ではないのかもしれない。
大振りなガレの腕を軽く退いてかわすと、クローテは反動をつけてそのまま空中でくるりと回り、地面に片手をついてから更に後方に、誘うようにして跳ねる。
瞬間、ちらりとアングレーズに目配せをして。
「あ」
身軽な彼ならではの派手な動きに、カカオが思わず声を漏らす。
(そういうことか……)
アングレーズにもクローテの意図は伝わったようで、意識を集中させ始めた。
狙いはガレの現在地、ではなく……
「どうした、こんな奴一人にいつまで手こずっている?」
「っ……!」
挑発に乗せられるようにガレが地を蹴って加速し、一気に距離を詰める。
「少しだけ、我慢してくれ……ガレ」
クローテの口許が僅かに動き、そっとそう告げた。
「!」
ぶわ、と地面から旋風が巻き起こる。
そこはついさっきクローテが回避の動作で手を触れた位置……敵が近づくと発動するよう仕掛けた、魔術の応用技だ。
「今だ!」
「任せて!」
すかさずアングレーズが振り下ろした杖の鈴が、シャンと鳴り響く。
突然の風で怯んだガレの足元から、無数の腕が現れてガレの四肢を掴んだ。
「!?」
がっしりとしたそれは土でできており、ガレがいくら抵抗してもびくともしない。
「これ、ゴーレムの手……?」
「そ。あまり長くはもたないけど雷のブレスも効かないし拘束力は強いわ」
土人形を操る父親譲りのアングレーズの能力、それによる拘束……それがクローテが頼んだ、彼女だからできることだった。