42~望まぬ戦い~

 魔物退治も終わりに差し掛かった頃。

「でぇいっ!」

 ブオルが斧のひと薙ぎで災厄の眷属を両断し、浄化の力によって消滅していく中でようやく一息吐こうとしたが……

「!」

 ぴく、とクローテの耳が微かな音に反応して動いた。

「危ない!」

 一瞬遅れて飛び出してきた見覚えのある巨大なブーメランがミレニアを襲うが、クローテの視線に反応したカカオとブオルがすかさず防ぐ。

「っと、今のはちとやばかったかの……」
『魔物どもの仕業じゃねえな? 何者だッ!』

 ミレニアを守るように炎の衣を展開させながら豪腕の焔が吠える。
 すると真っ黒な闇のマナが集まり、そこから一人の青年が姿を見せた。

 髪を高く束ねた藍鉄の髪が微風に揺れる。
 赤銅色の猫目は今は伏せられ、悲痛な面持ちで。

「猫の耳と尻尾、手足……あいつらと同じ、聖依獣の……?」

 カネルがそう呟くが答えは返ってこない。
 しかし……

「……やはり来たか、ガレ」

 クローテは青年……ガレをまっすぐに見つめた。

「は? ガレってカッセのせがれのちびにゃんこじゃろ!?」
『さっきはざっくりとしか説明できなかったからね。そこのアングレーズと一緒に未来から来たんだよ』
「すくすく育ち過ぎじゃろ……まったくどこのイケニャンかと思ったぞ」
「いつもはもっと締まりのない顔なんですけどね」

 構えながら、目の前にいる青年は仲間で、今は敵に操られているのだと説明するクローテ。

「おかしいわね……ガレ君、意識はあるみたいなんだけど」
「それにしては、嘘みたいに静かだよね」

 と、アングレーズがガレの口元を注視すると、僅かに動いているのがわかった。
 何か訴えるように開閉してはいるが、そこからはせいぜい空気が洩れるような音しか聴こえない。

「声を奪う術……」
「え?」
「今じゃ上位の術に成り代わってほとんど使われることはないんじゃがな……魔術を封じる術として用いられていたものがあるんじゃ。効果は一時的なものじゃが……」

 以前、操られたガレが仲間にブーメランを投げつけたが彼自身が声を発して警告したため誰に当たることもなかった。
 今度はそうはいかない、ということだろうか……どこまでも悪趣味だとカカオ達は思った。

「自分の意思とは関係なく仲間を傷つけさせられて、今度は声まで……なんてひどい……」
「ガレはオモチャじゃねーんだぞ、テラ……!」

 ぎり、とカカオが苦々しく奥歯を噛む。
 ガレの首筋に浮かび上がる紋様が妖しく輝くと、彼は流れるように武器を持ち……

 い、や、だ。

 躊躇いのない動きとは裏腹に声を出せない口がはっきりとそう動いたのが見えた。

「こっからはオレ達の戦いだ……ミレニアさんは負傷した騎士達の避難を!」
「わかった、頑張るんじゃぞ!」

 互いの戸惑いなどお構いなしに、望まない戦いが幕を開けた。
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