4~決意、刃に乗せて~
『フローレットは気を失ってるみたいだ……今のうちにっ!』
ランシッドは小さな毛玉姿から人型……本来の姿になると、周囲の空間を切り離して安全を確保した。
こうなればいくら暴れてもフローレットや洞窟に影響はない上に、その戦闘が人目に触れることもなくなるだろう。
目の前の敵もカカオ達も過去の世界にとっては存在するはずのない異物で、それが周りを傷つけるなどあってはならないことなのだ。
「この空間……ただのガキの集団ではない、ということか」
「油断してくれたままの方がやりやすかったんだがな」
ヒュ、と僅かに風が音を立てる。
気配なく接近していたクローテが、低い姿勢から思いきり魔物の顎らしき部分を蹴り上げた。
「がっ……!」
長い獣の耳と尻尾をもつ特徴的な外見の通り、人間と聖依獣のハーフであるクローテの身体能力は高く、特に脚力は華奢な見た目に反して凄まじい。
吹き飛ばされかけた化け物はすぐさま体勢を立て直すが、ダメージはしっかり残っているようだ。
「クローテの蹴りは効くぜぇ……うさぎさんキックだからな!」
「黙れ。戦闘中だぞ」
その勢いのままくるりと一回転すると片手でトン、と地面に触れ、反動をつけて起き上がる。
すかさず二、三歩と軽やかに地を蹴って距離をとり、相手から視線を外さずに軽口を叩く幼馴染みを声だけで睨んだ。
「なるほど、ろくに抵抗する力も持たない職人の始末などどうやったら失敗するのかと思っていたら……こういうことか」
「そういうことだ、このネタバレ野郎!」
力強い踏み込みから、カカオも大振りな一撃を放つ。
扱い易いよう先端の錘をやや小さくした戦鎚はそこそこの力と技量があればそれなりに取り回せるが、カカオの動きには危うさが感じられない。
「全くの素人ではない、か……」
「じーちゃんの護衛でよく魔物と戦うからな!」
「ふん……だがっ!」
化物が気合いを込めるように一歩踏み出して横なぎに腕を払うと、攻勢に出ていたカカオが吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!」
「カカオ君!」
「一撃がまだ軽い……そこのお前もだっ!」
化物は倒れたカカオに気をとられたメリーゼにも迫り、同様に強烈な攻撃を食らわせる。
「うっ……!」
「メリーゼ姉っ」
そして棒立ち状態のモカにも接近し……
「威勢がいいのは最初だけか?」
平面的なその顔が、嗤ったような気配がした。
「っ! や、やだ、こないで……っ」
モカはお辞儀をするように頭を下げると、背中の箱から数本ぶら下がっている色違いの紐のうち、赤い紐をぐいっと引っ張る。
「……なーんて、ね」
今度は彼女がぺろりと舌を出し、悪戯な笑みを浮かべる。
大きな箱の蓋が開くと、化け物に真っ直ぐに向けられた中身が勢い良く飛び出した。
ばっこーん!
彼女がずっと大事そうに背負っていた箱はまさしく巨大なびっくり箱で、バネによって押し出された真ん丸の、見る人によっては苛立ちを覚えるかもしれない茶目っ気たっぷりな顔が描かれた物体が化物を殴りつけ、遠くにぶっ飛ばす。
「ぐおぉっ!?」
まさかそんな物が出てくるとは思わなかっただろう相手はまともに食らい、無様に地を転がった。
「だぁから言ったじゃん……『恥ずかしいことになる』ってさ!」
不敵な少女の笑みは、母親のそれとよく似ているな、とランシッドは思うのだった。
ランシッドは小さな毛玉姿から人型……本来の姿になると、周囲の空間を切り離して安全を確保した。
こうなればいくら暴れてもフローレットや洞窟に影響はない上に、その戦闘が人目に触れることもなくなるだろう。
目の前の敵もカカオ達も過去の世界にとっては存在するはずのない異物で、それが周りを傷つけるなどあってはならないことなのだ。
「この空間……ただのガキの集団ではない、ということか」
「油断してくれたままの方がやりやすかったんだがな」
ヒュ、と僅かに風が音を立てる。
気配なく接近していたクローテが、低い姿勢から思いきり魔物の顎らしき部分を蹴り上げた。
「がっ……!」
長い獣の耳と尻尾をもつ特徴的な外見の通り、人間と聖依獣のハーフであるクローテの身体能力は高く、特に脚力は華奢な見た目に反して凄まじい。
吹き飛ばされかけた化け物はすぐさま体勢を立て直すが、ダメージはしっかり残っているようだ。
「クローテの蹴りは効くぜぇ……うさぎさんキックだからな!」
「黙れ。戦闘中だぞ」
その勢いのままくるりと一回転すると片手でトン、と地面に触れ、反動をつけて起き上がる。
すかさず二、三歩と軽やかに地を蹴って距離をとり、相手から視線を外さずに軽口を叩く幼馴染みを声だけで睨んだ。
「なるほど、ろくに抵抗する力も持たない職人の始末などどうやったら失敗するのかと思っていたら……こういうことか」
「そういうことだ、このネタバレ野郎!」
力強い踏み込みから、カカオも大振りな一撃を放つ。
扱い易いよう先端の錘をやや小さくした戦鎚はそこそこの力と技量があればそれなりに取り回せるが、カカオの動きには危うさが感じられない。
「全くの素人ではない、か……」
「じーちゃんの護衛でよく魔物と戦うからな!」
「ふん……だがっ!」
化物が気合いを込めるように一歩踏み出して横なぎに腕を払うと、攻勢に出ていたカカオが吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!」
「カカオ君!」
「一撃がまだ軽い……そこのお前もだっ!」
化物は倒れたカカオに気をとられたメリーゼにも迫り、同様に強烈な攻撃を食らわせる。
「うっ……!」
「メリーゼ姉っ」
そして棒立ち状態のモカにも接近し……
「威勢がいいのは最初だけか?」
平面的なその顔が、嗤ったような気配がした。
「っ! や、やだ、こないで……っ」
モカはお辞儀をするように頭を下げると、背中の箱から数本ぶら下がっている色違いの紐のうち、赤い紐をぐいっと引っ張る。
「……なーんて、ね」
今度は彼女がぺろりと舌を出し、悪戯な笑みを浮かべる。
大きな箱の蓋が開くと、化け物に真っ直ぐに向けられた中身が勢い良く飛び出した。
ばっこーん!
彼女がずっと大事そうに背負っていた箱はまさしく巨大なびっくり箱で、バネによって押し出された真ん丸の、見る人によっては苛立ちを覚えるかもしれない茶目っ気たっぷりな顔が描かれた物体が化物を殴りつけ、遠くにぶっ飛ばす。
「ぐおぉっ!?」
まさかそんな物が出てくるとは思わなかっただろう相手はまともに食らい、無様に地を転がった。
「だぁから言ったじゃん……『恥ずかしいことになる』ってさ!」
不敵な少女の笑みは、母親のそれとよく似ているな、とランシッドは思うのだった。