42~望まぬ戦い~

 中央大陸グランマニエの隅にある小さな村、シブーストを襲う災厄の眷属。
 しかし二十年前の英雄ミレニアと、すっかり戦い慣れたカカオ達が揃っていては、大した脅威にならなかった。

「どーん!」

 ミレニアが指先から三連の火の玉を飛ばし、魔物に直撃させる。
 ろくな詠唱もせず放たれた下級術とは思えぬ威力で、その炎は一匹の魔物を消し去った。

「すっご……!」

 すっかり平和になった現代で、真剣に戦う母の姿は初めて見たのだろうモカが、驚きの声を漏らす。

「呆けとる場合ではないぞモカ。まだまだじゃ!」

 炎を豪快に掻き集め、密集した黒い塊目掛けて一気に放つ。
 地を揺るがすかと思うような爆音を背に、一方ではカカオ達も奮闘していた。

『派手にやってくれるね、相変わらず』
「シブースト村のヒーロー、か……負けてられねーな!」

 カカオはそう言って宙に漂う火のマナの残滓を指先に絡め、練りあげる。

「宿れ、火精の力……熱く滾りし紅蓮の衣、鬼神の如き豪腕を……パンキッド!」
「はいよ!」

 見習い職人が形にした赤いマナの衣はパンキッドを包み、彼女の身体に浸透していく。
 瞬間、彼女は己の中から湧き上がる熱さ、全身に満ち満ちていく炎の力を感じた。

「っしゃあ!」

 炎を纏った少女は両手に構えたトンファーにそれを集め、魔物に飛びかかる。
 仕留めた敵を踏み台に、次の標的へ飛び移る……次々と獲物を変えて跳ね回る姿は、さながら獰猛な獣のようだった。

「ミレニア姉ちゃんもすごいけど、あっちもすげえ……いったい何者だよ?」

 一足先に村の住民を逃し、ミレニア達が駆けつけるまで戦っていた騎士の青年、カネルは手際良く敵の数を減らしていく彼らの力にただただ驚いていた。
 これまでに受けた傷はクローテの治癒術で癒えたが、もはや彼の出る幕はなさそうだ。

『世間の言葉を借りるなら、英雄の血縁者……だが、それだけじゃない』

 火精霊はそう言うと、戦闘の中心にいる若者達に目を向ける。

『そうだな、言うなれば……“英雄の想いを継ぐ者”とか、そんな感じか?』
「想いを、継ぐ者……」

 カネルはその瞳に、しっかりと彼らの姿を焼きつけた。
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