40~喪失と、怒りと~(スキットなし)
「そんな、ガレが……」
クローテ達の話が終わった時、カカオ達は俯いて悲しみや怒りを堪えていた。
「なにも、できなかった……あの時よりも強くなった、つもりでいたのに」
「いや……よく頑張ったよ。魔物だけじゃなく、テラの気分ひとつで里に被害が出る可能性もあった」
さぞかし無念だったろう三人の頭を、ブオルがそっと撫でる。
当初の役割であった聖依獣の里は守りきれたのだから……そんなことを言っても、慰めにはならないかもしれないが。
『オアシスの時からずっと、ガレを連れ去る隙を狙っていたんだろうね』
「生きたまま、か……言葉の通りなら、ガレがすぐ殺されるようなことはないはず……だけど」
いつも明朗なパンキッドらしからぬ言葉の濁しようは、まだ仲間に入って日が浅い彼女もろくでもない予感をおぼえずにはいられないからだろう。
それだけ、テラのえげつないやり口は印象に残るものだった。
と、
「何がオモチャだ、何がゲームだ……」
「カカオ、くん……?」
低く震える声は、カカオのものだった。
激昂に見開いた三白眼は、彼との付き合いが長いメリーゼやクローテですらも息を呑むほどの迫力で。
「今回は勝ちでいい、だと……? こっちは一戦一戦に世界の存亡がかかってんのに、ふざけやがって……!」
『落ち着いて、カカオ』
「これが落ち着いてっ……」
『落ち着くんだっ!』
ランシッドが強く言い放つと、カカオの肩がびくりと跳ねた。
『俺だって怒りを覚えてるよ。アラカルティアの精霊として、王だった者として、あんなヤツに世界を好き勝手されてること……そしてランシッド個人として、大事な仲間をオモチャ呼ばわりされて弄ばれてることにね』
けど、と続ける声音は打って変わって静かに落ち着いたものへ。
『……そこで心を乱したら、ヤツの思うつぼだよ。ガレは生きてる。生きてさえいれば、元に戻すチャンスは来る……きっとね』
「お父様……」
乱された心には冷水を。
メリーゼの父親ながら精霊としての一線は引いており、たまに冷たく突き放した物言いもするランシッドだが、カカオを黙らせた一声には自身の激しい感情も垣間見せた。
彼だって、悔しくない訳がないのだ。
「精霊サマの言うとおりだよ、カカオ。ガレを助けるためにも、アタシらはアタシらのやれる事をやろう。ご丁寧にも『また会える』って言ってくれたんだからさ」
「それに、ガレが次に姿を見せる時にはテラの分身が傍にいないかもしれないだろ? そっちのがきっと望みがあるって、なあ?」
「パンキッド、ブオルのおっさん……」
辛い気持ちも憤りも同様にあるだろうにカカオを宥めようと言葉をかける仲間たちが、カカオの狭まった視界を引き戻した。
ぱしぃん、と小気味の良い音を立て、カカオは己の頬を叩く。
それは彼の祖父が己の気を引き締める時によく行う仕草で。
「……わりぃな、みんな」
「私も、取り乱してすまなかった……必ずガレを連れ戻そう、カカオ」
クローテもそう言って、微笑みかける。
「やられっ放しじゃ終われませんからね!」
『そうそう、その意気だよ!』
ガレへの心配は募るが、下ばかり向いてはいられない。
そうして彼らは決意を新たに、前を向くのだった。
クローテ達の話が終わった時、カカオ達は俯いて悲しみや怒りを堪えていた。
「なにも、できなかった……あの時よりも強くなった、つもりでいたのに」
「いや……よく頑張ったよ。魔物だけじゃなく、テラの気分ひとつで里に被害が出る可能性もあった」
さぞかし無念だったろう三人の頭を、ブオルがそっと撫でる。
当初の役割であった聖依獣の里は守りきれたのだから……そんなことを言っても、慰めにはならないかもしれないが。
『オアシスの時からずっと、ガレを連れ去る隙を狙っていたんだろうね』
「生きたまま、か……言葉の通りなら、ガレがすぐ殺されるようなことはないはず……だけど」
いつも明朗なパンキッドらしからぬ言葉の濁しようは、まだ仲間に入って日が浅い彼女もろくでもない予感をおぼえずにはいられないからだろう。
それだけ、テラのえげつないやり口は印象に残るものだった。
と、
「何がオモチャだ、何がゲームだ……」
「カカオ、くん……?」
低く震える声は、カカオのものだった。
激昂に見開いた三白眼は、彼との付き合いが長いメリーゼやクローテですらも息を呑むほどの迫力で。
「今回は勝ちでいい、だと……? こっちは一戦一戦に世界の存亡がかかってんのに、ふざけやがって……!」
『落ち着いて、カカオ』
「これが落ち着いてっ……」
『落ち着くんだっ!』
ランシッドが強く言い放つと、カカオの肩がびくりと跳ねた。
『俺だって怒りを覚えてるよ。アラカルティアの精霊として、王だった者として、あんなヤツに世界を好き勝手されてること……そしてランシッド個人として、大事な仲間をオモチャ呼ばわりされて弄ばれてることにね』
けど、と続ける声音は打って変わって静かに落ち着いたものへ。
『……そこで心を乱したら、ヤツの思うつぼだよ。ガレは生きてる。生きてさえいれば、元に戻すチャンスは来る……きっとね』
「お父様……」
乱された心には冷水を。
メリーゼの父親ながら精霊としての一線は引いており、たまに冷たく突き放した物言いもするランシッドだが、カカオを黙らせた一声には自身の激しい感情も垣間見せた。
彼だって、悔しくない訳がないのだ。
「精霊サマの言うとおりだよ、カカオ。ガレを助けるためにも、アタシらはアタシらのやれる事をやろう。ご丁寧にも『また会える』って言ってくれたんだからさ」
「それに、ガレが次に姿を見せる時にはテラの分身が傍にいないかもしれないだろ? そっちのがきっと望みがあるって、なあ?」
「パンキッド、ブオルのおっさん……」
辛い気持ちも憤りも同様にあるだろうにカカオを宥めようと言葉をかける仲間たちが、カカオの狭まった視界を引き戻した。
ぱしぃん、と小気味の良い音を立て、カカオは己の頬を叩く。
それは彼の祖父が己の気を引き締める時によく行う仕草で。
「……わりぃな、みんな」
「私も、取り乱してすまなかった……必ずガレを連れ戻そう、カカオ」
クローテもそう言って、微笑みかける。
「やられっ放しじゃ終われませんからね!」
『そうそう、その意気だよ!』
ガレへの心配は募るが、下ばかり向いてはいられない。
そうして彼らは決意を新たに、前を向くのだった。