39~守れ、世界の要~
場所は変わって、現代のマーブラム城・会議室。
『……セス、』
小さく女性の声がして、モラセスは己の懐から小さな箱を取り出した。
深い青色を基調に金の見事な装飾が施された小箱は一目で名品だとわかるものだ。
「カミベル、どうした?」
モラセスは手のひらに乗せた小箱を開け、その中に語りかける。
小さな光の玉がぴょこんと飛び出し、人型……正確には、獣人の女性の姿を形作った。
二十年前まで障気から世界を守るための結界の核となっていた巫女カミベルは、いろいろあって今はこうしてモラセスの傍にいる。
ふたりの淡い恋心は実らず、長い間再会も叶わなかったが、“総てに餓えし者”による障気が消えた現代では、もはや彼女を縛る結界は必要ないのだ。
ただ、実体のない不安定な身を入れるため、こうして名工が作った特殊な小箱を器としているのだが。
『あの子たちが過去で頑張ってくれてるからか、少し思い出したの……』
「思い出した?」
『彼らが“英雄”だってこと』
カミベルの言葉に『そうじゃ』と続いたのは、聖依獣の隠れ里から声を届けている長のムース。
『わし、最初“英雄達よ”っつったじゃろ? なんとなーく、英雄王やその仲間たちのつもりで言ったと思ったんじゃが……』
「これから里を救う、カカオ達のことだと?」
その英雄王が尋ねるが、言った本人は唸るばかりで即答しない。
『……過去の出来事がまだ繋がっておらんのじゃろ。里の消滅と、それを救われた記憶……どちらも薄れては戻り、浮き出てはまた薄れ、その繰り返しじゃ』
「カカオ達が頑張っている最中なのですね……」
今回、過去へ飛んだカカオ達がこちらに戻ってくることはない。
だから彼らの成功は時空干渉で消滅しかけているムースによって知らされるだろう。
「……俺はもう行く」
「グラッセ」
「どのみちあいつらが失敗したら里だけじゃなく連鎖的にみんな消えるんだろう? だったら、いつまでもここでじっとしていても仕方ない」
俺は俺のできることをやるだけだ、と言外に含めるとグラッセは立ち上がりすたすたと会議室を出ていく。
「あっ、グラッセ! まったく……」
勝手な弟に困惑するオグマに「素直じゃないな」とスタードが笑いかけた。
「彼らを信じているから、他のやるべきことをやる……そんなところだろう」
「言葉が足りないんですよね、グラッセのやつ」
リュナンも続くと、オグマは眉間に皺を寄せる。
「それにしたって……挨拶くらいちゃんとしなさいっていつも言っているのに」
「あはは。兄というより親みたいだね、オグマさん」
くすくすと笑うトランシュに、場の雰囲気も心なしか和やかで。
『この空気……一歩間違えればみんなおしまいなのに、そうは見えないわ』
『心配はしているが信じている……そんなところかの?』
「そんなところだ」
ここに恐怖に沈む者、不安がる者はいない。
応えるモラセスは、誇らしげであった。
『……セス、』
小さく女性の声がして、モラセスは己の懐から小さな箱を取り出した。
深い青色を基調に金の見事な装飾が施された小箱は一目で名品だとわかるものだ。
「カミベル、どうした?」
モラセスは手のひらに乗せた小箱を開け、その中に語りかける。
小さな光の玉がぴょこんと飛び出し、人型……正確には、獣人の女性の姿を形作った。
二十年前まで障気から世界を守るための結界の核となっていた巫女カミベルは、いろいろあって今はこうしてモラセスの傍にいる。
ふたりの淡い恋心は実らず、長い間再会も叶わなかったが、“総てに餓えし者”による障気が消えた現代では、もはや彼女を縛る結界は必要ないのだ。
ただ、実体のない不安定な身を入れるため、こうして名工が作った特殊な小箱を器としているのだが。
『あの子たちが過去で頑張ってくれてるからか、少し思い出したの……』
「思い出した?」
『彼らが“英雄”だってこと』
カミベルの言葉に『そうじゃ』と続いたのは、聖依獣の隠れ里から声を届けている長のムース。
『わし、最初“英雄達よ”っつったじゃろ? なんとなーく、英雄王やその仲間たちのつもりで言ったと思ったんじゃが……』
「これから里を救う、カカオ達のことだと?」
その英雄王が尋ねるが、言った本人は唸るばかりで即答しない。
『……過去の出来事がまだ繋がっておらんのじゃろ。里の消滅と、それを救われた記憶……どちらも薄れては戻り、浮き出てはまた薄れ、その繰り返しじゃ』
「カカオ達が頑張っている最中なのですね……」
今回、過去へ飛んだカカオ達がこちらに戻ってくることはない。
だから彼らの成功は時空干渉で消滅しかけているムースによって知らされるだろう。
「……俺はもう行く」
「グラッセ」
「どのみちあいつらが失敗したら里だけじゃなく連鎖的にみんな消えるんだろう? だったら、いつまでもここでじっとしていても仕方ない」
俺は俺のできることをやるだけだ、と言外に含めるとグラッセは立ち上がりすたすたと会議室を出ていく。
「あっ、グラッセ! まったく……」
勝手な弟に困惑するオグマに「素直じゃないな」とスタードが笑いかけた。
「彼らを信じているから、他のやるべきことをやる……そんなところだろう」
「言葉が足りないんですよね、グラッセのやつ」
リュナンも続くと、オグマは眉間に皺を寄せる。
「それにしたって……挨拶くらいちゃんとしなさいっていつも言っているのに」
「あはは。兄というより親みたいだね、オグマさん」
くすくすと笑うトランシュに、場の雰囲気も心なしか和やかで。
『この空気……一歩間違えればみんなおしまいなのに、そうは見えないわ』
『心配はしているが信じている……そんなところかの?』
「そんなところだ」
ここに恐怖に沈む者、不安がる者はいない。
応えるモラセスは、誇らしげであった。