39~守れ、世界の要~
実体をもたない身で、侵入者の凶刃を防ぐ術はカミベルにはなかった。
反応が間に合わないような速度で眼前まで迫ってきた敵に、思わず目を瞑り身を固くする。
「カミベル!」
『……っ!』
しかしその瞬間、硬質な金属音が聖地に響いた。
カミベルがおそるおそる目を開けると……
「可憐な乙女に抜き身の刃向けるなんて、スマートじゃあないな。その腕、おしゃれカバーでもした方がいいんじゃないのか?」
『あなたは……!』
ふわ、と翻る夜色の装束。
服装や雰囲気は違うが、そこらの大柄な男性すら小さく見せる巨躯にカミベルは見覚えがあった。
『モラセスと一緒にいた騎士様……?』
「覚えていただけて光栄だけど、やっぱこの変装あんま意味ないか」
ひと振りの大斧で人形の剣のような両腕を受け止めた騎士……今は旅人風の衣装に身を包んだブオルは、カミベルを振り返るとニィ、と笑った。
次いで駆けつけた若者、カカオ達もすぐさま武器を構えて戦闘態勢に移る。
「この聖地に侵入者じゃと……? 一体どうなっとるんじゃ?」
「話はあとでござる!」
「今はこの場の敵を!」
訝るムースは目の前に現れた新たな人物の姿に目を見開くことになる。
人間に獣の耳や尾……片方の青年にいたってはその手足も猫のようなそれで、明らかに人間とは異なる種族であるとわかる容姿。
……いや、自分達聖依獣と人間との間に生まれた者がちょうどこんな姿をしていたと、数百年の長い生の遠い記憶に残っていた。
(狭間の民……長らく生まれていなかったはずじゃが……)
だがそれを確かめる暇は戦場と化したここにはなかった。
「テラ様の言っていた“邪魔者”だな? この世界の要である結界の巫女を守りに来たか」
一気に多勢に無勢となった状況で、それでも人形は焦りの色を見せない。
その理由は、聖地にも届く悲鳴によって判明することとなる。
『ムース様! 里に魔物の群れが!』
「なんじゃと!?」
遠く離れた場所のことも感知できるカミベルが、里の危機を長に伝えた。
「ほら、早く行かないと死人が出るぞ。結界の巫女を守るために里の者を見殺しにするなら簡単な話だがな」
「てめえ……!」
怒りを隠しもしないカカオが、今にも噛みつきそうな剣幕で敵を睨みつける。
シャン、とアングレーズが杖の鈴を強く鳴らし、全員の意識を引き戻した。
「手分けしていきましょう。ここに残る人と、里の魔物を退治する人で」
「なら私は里へ向かう。傷ついた者達の治療も必要だろうからな」
「それがしも、半分とはいえ同じ聖依獣。仲間を安心させられるかもしれないでござる」
そう言って率先して里へ向かったクローテとガレ、それにアングレーズとモカが続く。
残ったのは、カカオにメリーゼ、パンキッド、それにブオル。
奇しくも魔術や範囲攻撃を得意とする者と一対一の戦いを得意とする者で綺麗にメンバーが分かれた。
「やっぱアタシは、誰かを守るよりムカつくヤツをブッ飛ばす方が得意なんだよね!」
「こっちだってお姫様を守る戦いには違いないだろ?」
「やる気か……ならば」
すう、と人形が右手を水平に伸ばすと、空間にいくつもの新たな穴が開く。
そこからさらに同様の姿をした者が現れると、相手側の数の不利はなくなった。
(何かが起きている……私にも感知できない、何かが……)
突然訪れた里の危機と、それすら予期していたかのようなヒーローの出現。
彼らが未来から来たなどと知る由もないカミベル達は、ただ見守るだけであった。
反応が間に合わないような速度で眼前まで迫ってきた敵に、思わず目を瞑り身を固くする。
「カミベル!」
『……っ!』
しかしその瞬間、硬質な金属音が聖地に響いた。
カミベルがおそるおそる目を開けると……
「可憐な乙女に抜き身の刃向けるなんて、スマートじゃあないな。その腕、おしゃれカバーでもした方がいいんじゃないのか?」
『あなたは……!』
ふわ、と翻る夜色の装束。
服装や雰囲気は違うが、そこらの大柄な男性すら小さく見せる巨躯にカミベルは見覚えがあった。
『モラセスと一緒にいた騎士様……?』
「覚えていただけて光栄だけど、やっぱこの変装あんま意味ないか」
ひと振りの大斧で人形の剣のような両腕を受け止めた騎士……今は旅人風の衣装に身を包んだブオルは、カミベルを振り返るとニィ、と笑った。
次いで駆けつけた若者、カカオ達もすぐさま武器を構えて戦闘態勢に移る。
「この聖地に侵入者じゃと……? 一体どうなっとるんじゃ?」
「話はあとでござる!」
「今はこの場の敵を!」
訝るムースは目の前に現れた新たな人物の姿に目を見開くことになる。
人間に獣の耳や尾……片方の青年にいたってはその手足も猫のようなそれで、明らかに人間とは異なる種族であるとわかる容姿。
……いや、自分達聖依獣と人間との間に生まれた者がちょうどこんな姿をしていたと、数百年の長い生の遠い記憶に残っていた。
(狭間の民……長らく生まれていなかったはずじゃが……)
だがそれを確かめる暇は戦場と化したここにはなかった。
「テラ様の言っていた“邪魔者”だな? この世界の要である結界の巫女を守りに来たか」
一気に多勢に無勢となった状況で、それでも人形は焦りの色を見せない。
その理由は、聖地にも届く悲鳴によって判明することとなる。
『ムース様! 里に魔物の群れが!』
「なんじゃと!?」
遠く離れた場所のことも感知できるカミベルが、里の危機を長に伝えた。
「ほら、早く行かないと死人が出るぞ。結界の巫女を守るために里の者を見殺しにするなら簡単な話だがな」
「てめえ……!」
怒りを隠しもしないカカオが、今にも噛みつきそうな剣幕で敵を睨みつける。
シャン、とアングレーズが杖の鈴を強く鳴らし、全員の意識を引き戻した。
「手分けしていきましょう。ここに残る人と、里の魔物を退治する人で」
「なら私は里へ向かう。傷ついた者達の治療も必要だろうからな」
「それがしも、半分とはいえ同じ聖依獣。仲間を安心させられるかもしれないでござる」
そう言って率先して里へ向かったクローテとガレ、それにアングレーズとモカが続く。
残ったのは、カカオにメリーゼ、パンキッド、それにブオル。
奇しくも魔術や範囲攻撃を得意とする者と一対一の戦いを得意とする者で綺麗にメンバーが分かれた。
「やっぱアタシは、誰かを守るよりムカつくヤツをブッ飛ばす方が得意なんだよね!」
「こっちだってお姫様を守る戦いには違いないだろ?」
「やる気か……ならば」
すう、と人形が右手を水平に伸ばすと、空間にいくつもの新たな穴が開く。
そこからさらに同様の姿をした者が現れると、相手側の数の不利はなくなった。
(何かが起きている……私にも感知できない、何かが……)
突然訪れた里の危機と、それすら予期していたかのようなヒーローの出現。
彼らが未来から来たなどと知る由もないカミベル達は、ただ見守るだけであった。