38~会議室、慌ただしく~

 リュナンに起きた時空干渉は、カカオ達を分断して個別に始末するためにテラの刺客が仕組んだ罠だった。
 それでもどうにか退けて、元の時代に帰ると……

「カ・カ・オ・せいねーんっ!」
「どわっ!?」

 城の会議室、そのリュナンにいきなり飛びつかれ、勢いでカカオは後ろに倒れ込み、尻餅をついた。

「な、なんだよおじさん!」
「俺、スケスケじゃなくなったー! 青年ってばすっかり逞しく成長しちゃっておじさん嬉しいよー!」

 透けなくなった己の両手を見せびらかしながら、感激の涙を流して感謝を伝えるリュナン。
 後ろからは「だから言っただろう」「大丈夫だったじゃねえか」と温度差のあるコメントが聞こえる。
 今までで一番反応が大きいなあ……と仲間達は遠巻きに眺めていた。

「けど、今回の時空干渉は完全にこっちを意識した動きだったなあ」
『俺もそう思うよ、ブオル。むしろ、リュナン自身はついでのような……』
「ちょっとぉ! ついでってなんですか!?」

 生死に関わる話をついで呼ばわりされて反射的に喚くリュナンだったが、

『……英雄達のことは今まで通り狙っていると思う。ただ、度重なる失敗でいい加減こちらを潰した方がいいと思われていそうだってね』
「まあ、邪魔が入らなければとっくにこの世界は終わってただろうからね」

 ランシッドとトランシュに続けて真面目な考えを述べられては、おとなしく着席するしかなかった。

「これまで時空干渉は特に無防備な状態、隙を突いて行われている。それこそ、ほんの少し後押しすれば遂行できるような状況ばかり……だから、いつの時代のどこまででも邪魔をしに来るお前達が脅威になるのは自然な流れだな」

 英雄を消すこと自体は難しくないのだろう、とモラセスは顎髭に手を添える。

「そして恐らくだが、テラという奴は“英雄”と“英雄に救われた世界”というのを憎んでいる……理由まではわからんが」
「英雄であるデューどのと対峙した時、明らかに憎悪を剥き出しにして豹変したでござる……」

 分身とはいえテラと直接まみえたことのあるガレもそう続けた。

『過去にわざわざ赴くのは、救われるはずだった世界を英雄を消すことで壊したいから……とことん悪趣味な奴だとは思ったけど、そういう執着心があるのかもね』
「けど逆に言ってしまえばこっちには狙いがわかりやすいって利点もあるよ。英雄を消すということに関してなら、残る干渉ポイントはそう多くはないはずさ」

 普段はややノリの軽い過去と現代の王が‎真面目な話し合いをする中、

「……“ついで”から随分真面目な話に飛んだなあ」
「おふざけできない空気はつらいね、おじちゃん」

 さらにノリの軽い者達は、やや肩身の狭い思いをしていたとか。
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