36~王都の再会~
転移した先の視界は紫色の靄に遮られて、そう離れていないはずの仲間の姿すらわからなかった。
「ここは……」
『ひどい障気だね。リュナンがみんなと出会う直前で場所は王都の東、ネグリート砦の近くらしいけど……何も見えないや』
きょろきょろと見回すメリーゼの隣で、ランシッドが腕組みをする。
『障気は“総てに餓えし者”が生み出す穢れでヒトの身体を蝕む。ガトーの腕輪の蛍煌石がなかったらひとたまりもなかったろうね』
蛍煌石を身につけると、持ち主を守る簡易的な結界が発生する。
北大陸では火のマナで寒さを防いでくれたように、浄化の力が薄く纏われ、穢れを中和しているようだ。
もっとも、石の効果は加工する職人の腕次第だ。
過去に来ていきなり障気のド真ん中に立たされたメリーゼが普段どおり動けるのは、無意識下でも結界が発動するほど蛍煌石の力を引き出した名工のお陰だった。
「ここでも助けられて……自慢のお祖父様ね、カカオく……」
メリーゼはいつものように幼馴染みを振り返ろうとした、のだが……
「……カカオ君? みんな? 近くにいないんですか?」
視界のせいだけではなく、辺りに人の気配がない。
転移してきた時にはぐれてしまったようで、呼びかける声は濃霧に吸い込まれていくだけだった。
「ど、どうしましょう……」
『とにかく、リュナンへの時空干渉を阻止しないと。仲間を探すのはその後だよ』
「そう、ですね」
きっとみんな無事だよ、と付け足して精霊は娘に寄り添う。
仲間の身が心配ではないと言えば嘘になるが、本来の目的は世界を救う英雄になるはずのリュナンの消滅を防ぐこと……彼がこの時点で消されてしまえば、世界にどんな影響があるかわかったものではない。
表情を引き締めたメリーゼの耳に、草を踏む足音が届く。
「誰……?」
しかし返事のかわりに彼女を鋭い刺突が襲った。
「きゃっ!」
『メリーゼっ!』
不意討ちに咄嗟の反応でかわしたメリーゼは、飛び退いた着地と同時に双剣を抜き放つ。
「今のを避けるか……なかなかの反応速度だな」
「殺気が駄々漏れ過ぎて油断もさせてくれませんでしたから」
現れたのは無機質なテラの駒で、ひょろりと縦に長く薄っぺらな体躯で凶器そのものといえる鋭利な両腕を構えている。
周囲には互いの仲間の姿はなく、どうやら一対一のようだ。
「ふむ、騎士の娘か。単騎でもそれなりに戦える奴のようだな……だが、他の仲間はどうだろうな?」
「もしかして、みんなも同じように……!?」
クク、と化け物は喉を鳴らすような笑いを零した。
『みんなを散り散りにしたのもお前か!』
「さぁて、な?」
化け物の口振りからすると、恐らくはそうなのだろう。
仲間の安否が気掛かりだが、何にせよ目の前の敵を倒さねば……
(リュナンさん、みんな……お願い、無事でいて……!)
少女は黄金と茜の瞳に刃の鋭さを宿し、剣の柄を握る手に力をこめた。
「ここは……」
『ひどい障気だね。リュナンがみんなと出会う直前で場所は王都の東、ネグリート砦の近くらしいけど……何も見えないや』
きょろきょろと見回すメリーゼの隣で、ランシッドが腕組みをする。
『障気は“総てに餓えし者”が生み出す穢れでヒトの身体を蝕む。ガトーの腕輪の蛍煌石がなかったらひとたまりもなかったろうね』
蛍煌石を身につけると、持ち主を守る簡易的な結界が発生する。
北大陸では火のマナで寒さを防いでくれたように、浄化の力が薄く纏われ、穢れを中和しているようだ。
もっとも、石の効果は加工する職人の腕次第だ。
過去に来ていきなり障気のド真ん中に立たされたメリーゼが普段どおり動けるのは、無意識下でも結界が発動するほど蛍煌石の力を引き出した名工のお陰だった。
「ここでも助けられて……自慢のお祖父様ね、カカオく……」
メリーゼはいつものように幼馴染みを振り返ろうとした、のだが……
「……カカオ君? みんな? 近くにいないんですか?」
視界のせいだけではなく、辺りに人の気配がない。
転移してきた時にはぐれてしまったようで、呼びかける声は濃霧に吸い込まれていくだけだった。
「ど、どうしましょう……」
『とにかく、リュナンへの時空干渉を阻止しないと。仲間を探すのはその後だよ』
「そう、ですね」
きっとみんな無事だよ、と付け足して精霊は娘に寄り添う。
仲間の身が心配ではないと言えば嘘になるが、本来の目的は世界を救う英雄になるはずのリュナンの消滅を防ぐこと……彼がこの時点で消されてしまえば、世界にどんな影響があるかわかったものではない。
表情を引き締めたメリーゼの耳に、草を踏む足音が届く。
「誰……?」
しかし返事のかわりに彼女を鋭い刺突が襲った。
「きゃっ!」
『メリーゼっ!』
不意討ちに咄嗟の反応でかわしたメリーゼは、飛び退いた着地と同時に双剣を抜き放つ。
「今のを避けるか……なかなかの反応速度だな」
「殺気が駄々漏れ過ぎて油断もさせてくれませんでしたから」
現れたのは無機質なテラの駒で、ひょろりと縦に長く薄っぺらな体躯で凶器そのものといえる鋭利な両腕を構えている。
周囲には互いの仲間の姿はなく、どうやら一対一のようだ。
「ふむ、騎士の娘か。単騎でもそれなりに戦える奴のようだな……だが、他の仲間はどうだろうな?」
「もしかして、みんなも同じように……!?」
クク、と化け物は喉を鳴らすような笑いを零した。
『みんなを散り散りにしたのもお前か!』
「さぁて、な?」
化け物の口振りからすると、恐らくはそうなのだろう。
仲間の安否が気掛かりだが、何にせよ目の前の敵を倒さねば……
(リュナンさん、みんな……お願い、無事でいて……!)
少女は黄金と茜の瞳に刃の鋭さを宿し、剣の柄を握る手に力をこめた。