35~羽を休めて~
一方で、別行動をとっていたのはクローテとガレの二人。
カカオとメリーゼが二人で買い出しに行き、その後を追ってモカとアングレーズが消えた……女子ふたりの魂胆はどうせろくでもないことだろうと踏んだクローテが巻き込まれる可能性の高いそちら側に向かうはずはなかったが、
「どうしてお前までついてきた」
「にゃはは、なんとなく……ひとりだけ反対方向に行くクローテどのが見えたゆえ」
一緒に行動するにはいろんな意味で目立ってしょうがない長身猫耳の男を振り返り、クローテは溜息を吐いた。
「別にひとりで行動するのは苦ではないし、お前も好きなところに行って良かったんだぞ」
「だからこっちに来たのでござる!」
「お前な……まあいい」
カカオ達が向かった方はどちらかというと食べ物を売っている店が多かったが、こちらはどうやら装飾品や小物寄りらしい。
露店に並ぶ売り物のひとつ、チョーカーをなんとなく手にとってみると店主が笑顔で近づいてきた。
「お嬢さん、綺麗だねえ。きっとそれもよく似合うよ」
「っ!」
一瞬にして地雷を踏み抜かれたクローテは、悪気などないであろう店主を前に震えながらどうにか堪える。
「クローテどの、抑えて! て、店主どの、彼は男でござるよ」
「えっ、そうなのかい!? ごめんよ!」
「いえ……よく間違われますから……」
さすがに悪意のない相手を睨むことはできず、やり場のない気持ちを抑えていたクローテの視界にシャランと音を立ててネックレスが差し出される。
「繊細で綺麗な装飾でござる。クローテどのにはこちらも似合いそうでござるな」
「それ、女物じゃないのか?」
「細かいことはどうでも良いでござろう。何が似合うか、何を好ましく思うか、どうしたいか……最後に決めるのは己自身でござる」
そう言いながらネックレスをクローテの首元にあてて、にっこり笑うガレ。
しかし、その大きな手がするりと滑り、無防備な細い首にかけられて……
「――!」
「ガレ、どうした?」
「な、なんでもござらぬ」
慌ててそれを引っ込めたガレは、不思議そうに目を瞬かせた。
(なん、で……それがしは今、何をしようと……?)
「そういえば美人の兄ちゃん、その格好はグランマニエの人かい?」
ふいに声をかけられ、ふたりは店主に向き直る。
「はい、中央大陸から来ました」
「いやね、最近サラマンドルの闘技場に現れたっていう噂の闘士もグランマニエの人っぽいんだよ」
闘技場都市サラマンドルに立ち寄ったのは少し前になるが、そんな人物はいただろうか……疑問符を浮かべるクローテ達に店主は語る。
「あれはパンキッドちゃんがいなくなった直後……兄ちゃんくらいの年頃の男で仮面をつけて“マスク・ド・グランマニエ二世”なんて名乗ったんだけど、最初は全然弱くてな……けど、負けても負けても勝つまで挑戦し続けて、ついには優勝を掴み取った。そしてまた風のように消えちまった」
「マスク・ド・グランマニエ……」
面白い奴だったよ、と教えてくれた店主に一礼して、先程のネックレスを購入し、店をあとにする。
「……珍妙な話でござるなあ、クローテどの」
「そういうことをしそうなバカ王子にひとり心当たりがあるが……いや、まさかな……」
「クローテどの?」
一体どこの誰フォン王子なんだ……
ここまで考えて、人違いだったら笑えるのにな、とクローテは眉尻を下げて笑うのだった。
カカオとメリーゼが二人で買い出しに行き、その後を追ってモカとアングレーズが消えた……女子ふたりの魂胆はどうせろくでもないことだろうと踏んだクローテが巻き込まれる可能性の高いそちら側に向かうはずはなかったが、
「どうしてお前までついてきた」
「にゃはは、なんとなく……ひとりだけ反対方向に行くクローテどのが見えたゆえ」
一緒に行動するにはいろんな意味で目立ってしょうがない長身猫耳の男を振り返り、クローテは溜息を吐いた。
「別にひとりで行動するのは苦ではないし、お前も好きなところに行って良かったんだぞ」
「だからこっちに来たのでござる!」
「お前な……まあいい」
カカオ達が向かった方はどちらかというと食べ物を売っている店が多かったが、こちらはどうやら装飾品や小物寄りらしい。
露店に並ぶ売り物のひとつ、チョーカーをなんとなく手にとってみると店主が笑顔で近づいてきた。
「お嬢さん、綺麗だねえ。きっとそれもよく似合うよ」
「っ!」
一瞬にして地雷を踏み抜かれたクローテは、悪気などないであろう店主を前に震えながらどうにか堪える。
「クローテどの、抑えて! て、店主どの、彼は男でござるよ」
「えっ、そうなのかい!? ごめんよ!」
「いえ……よく間違われますから……」
さすがに悪意のない相手を睨むことはできず、やり場のない気持ちを抑えていたクローテの視界にシャランと音を立ててネックレスが差し出される。
「繊細で綺麗な装飾でござる。クローテどのにはこちらも似合いそうでござるな」
「それ、女物じゃないのか?」
「細かいことはどうでも良いでござろう。何が似合うか、何を好ましく思うか、どうしたいか……最後に決めるのは己自身でござる」
そう言いながらネックレスをクローテの首元にあてて、にっこり笑うガレ。
しかし、その大きな手がするりと滑り、無防備な細い首にかけられて……
「――!」
「ガレ、どうした?」
「な、なんでもござらぬ」
慌ててそれを引っ込めたガレは、不思議そうに目を瞬かせた。
(なん、で……それがしは今、何をしようと……?)
「そういえば美人の兄ちゃん、その格好はグランマニエの人かい?」
ふいに声をかけられ、ふたりは店主に向き直る。
「はい、中央大陸から来ました」
「いやね、最近サラマンドルの闘技場に現れたっていう噂の闘士もグランマニエの人っぽいんだよ」
闘技場都市サラマンドルに立ち寄ったのは少し前になるが、そんな人物はいただろうか……疑問符を浮かべるクローテ達に店主は語る。
「あれはパンキッドちゃんがいなくなった直後……兄ちゃんくらいの年頃の男で仮面をつけて“マスク・ド・グランマニエ二世”なんて名乗ったんだけど、最初は全然弱くてな……けど、負けても負けても勝つまで挑戦し続けて、ついには優勝を掴み取った。そしてまた風のように消えちまった」
「マスク・ド・グランマニエ……」
面白い奴だったよ、と教えてくれた店主に一礼して、先程のネックレスを購入し、店をあとにする。
「……珍妙な話でござるなあ、クローテどの」
「そういうことをしそうなバカ王子にひとり心当たりがあるが……いや、まさかな……」
「クローテどの?」
一体どこの誰フォン王子なんだ……
ここまで考えて、人違いだったら笑えるのにな、とクローテは眉尻を下げて笑うのだった。