35~羽を休めて~
色鮮やかなフルーツに、さらりとした手触りの布。
港町の商店にはさまざまな、グランマニエでは見られないような品物が並んでおり、練り歩くだけでも目に楽しいものであった。
「だいたいこんなところでしょうか」
「まあ、今回はそんなに買い込まなくてもな」
旅に必要な道具や消耗品を買い揃えたカカオとメリーゼの両手に提げられた袋は、この近くに入り口がある九頭竜の路からすぐに王都に向かえるため最低限の量となっていた。
「そろそろみんなのところに……」
「お、見ろよメリーゼ。なんかうまそーなもんが売ってるぞ」
メリーゼの言葉を遮ってカカオが示した先では、粉を一口サイズに丸めて油で揚げ、砂糖とスパイスをまぶした菓子が甘い匂いをさせていた。
出来立ての香りは誘惑が強く、流れるように売店へ吸い寄せられたカカオはひと袋買って戻ってくる。
「わあ、いい香り」
「ん、うまいな。できたてほかほかだ」
さっそくひとつ味見したカカオは、次にメリーゼにひとつ、あげようとする。
「いいんですか?」
「いいも何も、みんなで食べる用に買ったから。ほれ」
メリーゼは左右の手に提げた袋を片方に集めようとごそごそ動かしていたが、
「できたてが冷めたらもったいねーって。ほれ、あーん」
「えっ? あー……」
ぱくっ。
口元まで差し出された菓子を、彼女は無意識に口を開けて受け取った。
「……」
「どうだ?」
「んん、おいしいです!」
「そっか。へへ」
口いっぱいにひろがる小麦粉と砂糖の味、中央大陸ではあまり馴染みのないスパイスの強い香りは最後に通り抜けて爽やかさを残す。
そんな味を堪能したふたりは、自然と笑顔になっていた。
「も、もうひと袋買っちゃいましょうか……?」
「そうだな。おっちゃん、もういっこ!」
あっという間に口の中から消えたお菓子は仲間の人数を考えたら少し心許ない量に思えて、もう一度買いに戻ると、一部始終を見ていた売店の男もまた笑顔だった。
「いやあ、見せつけてくれるねえ、若いねえ……ちょっとオマケしてやるよ」
「? ありがとな!」
俺もカミさんといちゃつきたくなってきた、なんて言いながら先程より膨らんだ紙袋を手渡す店主。
どうしてそんなことを言われたのかわからなかったが、オマケしてもらえたことは素直にうれしく、ふたりは店主に礼を言った。
などと幼馴染ふたりが買い物を楽しんでいると、
「お、ありゃカカオとメリーゼだね」
その後ろ姿を見つけたのは、仲間のひとりパンキッドであった。
「おーい、ふたりとも……」
しかし駆け寄ろうとした彼女はジャケットの襟を掴まれ、強く後ろに引っ張られて路地裏に消える。
「わわっ! なっ、なにするんだい!?」
強かに尻餅をついた彼女が振り向くと、しーっと人差し指を立てるモカとアングレーズがそこにいた。
「……なに、してんの?」
「買い物デートが発展しないか見守ってるの。せっかくの二人っきりなんだから、邪魔しちゃだめ!」
「ほ、他にすることないのかい……?」
呆れるパンキッドに「ないね!」と強く言い放つモカ。
「……はあ。ま、どうせ発展も進展もありゃしないと思うけどね、あのふたりじゃ」
パンキッドの言葉どおり、カカオとメリーゼはこの後もいつもの調子で買い物だけして何のあれもなく普通に帰ってくることになるのであった。
港町の商店にはさまざまな、グランマニエでは見られないような品物が並んでおり、練り歩くだけでも目に楽しいものであった。
「だいたいこんなところでしょうか」
「まあ、今回はそんなに買い込まなくてもな」
旅に必要な道具や消耗品を買い揃えたカカオとメリーゼの両手に提げられた袋は、この近くに入り口がある九頭竜の路からすぐに王都に向かえるため最低限の量となっていた。
「そろそろみんなのところに……」
「お、見ろよメリーゼ。なんかうまそーなもんが売ってるぞ」
メリーゼの言葉を遮ってカカオが示した先では、粉を一口サイズに丸めて油で揚げ、砂糖とスパイスをまぶした菓子が甘い匂いをさせていた。
出来立ての香りは誘惑が強く、流れるように売店へ吸い寄せられたカカオはひと袋買って戻ってくる。
「わあ、いい香り」
「ん、うまいな。できたてほかほかだ」
さっそくひとつ味見したカカオは、次にメリーゼにひとつ、あげようとする。
「いいんですか?」
「いいも何も、みんなで食べる用に買ったから。ほれ」
メリーゼは左右の手に提げた袋を片方に集めようとごそごそ動かしていたが、
「できたてが冷めたらもったいねーって。ほれ、あーん」
「えっ? あー……」
ぱくっ。
口元まで差し出された菓子を、彼女は無意識に口を開けて受け取った。
「……」
「どうだ?」
「んん、おいしいです!」
「そっか。へへ」
口いっぱいにひろがる小麦粉と砂糖の味、中央大陸ではあまり馴染みのないスパイスの強い香りは最後に通り抜けて爽やかさを残す。
そんな味を堪能したふたりは、自然と笑顔になっていた。
「も、もうひと袋買っちゃいましょうか……?」
「そうだな。おっちゃん、もういっこ!」
あっという間に口の中から消えたお菓子は仲間の人数を考えたら少し心許ない量に思えて、もう一度買いに戻ると、一部始終を見ていた売店の男もまた笑顔だった。
「いやあ、見せつけてくれるねえ、若いねえ……ちょっとオマケしてやるよ」
「? ありがとな!」
俺もカミさんといちゃつきたくなってきた、なんて言いながら先程より膨らんだ紙袋を手渡す店主。
どうしてそんなことを言われたのかわからなかったが、オマケしてもらえたことは素直にうれしく、ふたりは店主に礼を言った。
などと幼馴染ふたりが買い物を楽しんでいると、
「お、ありゃカカオとメリーゼだね」
その後ろ姿を見つけたのは、仲間のひとりパンキッドであった。
「おーい、ふたりとも……」
しかし駆け寄ろうとした彼女はジャケットの襟を掴まれ、強く後ろに引っ張られて路地裏に消える。
「わわっ! なっ、なにするんだい!?」
強かに尻餅をついた彼女が振り向くと、しーっと人差し指を立てるモカとアングレーズがそこにいた。
「……なに、してんの?」
「買い物デートが発展しないか見守ってるの。せっかくの二人っきりなんだから、邪魔しちゃだめ!」
「ほ、他にすることないのかい……?」
呆れるパンキッドに「ないね!」と強く言い放つモカ。
「……はあ。ま、どうせ発展も進展もありゃしないと思うけどね、あのふたりじゃ」
パンキッドの言葉どおり、カカオとメリーゼはこの後もいつもの調子で買い物だけして何のあれもなく普通に帰ってくることになるのであった。