34~想い、彼方に~
オグマの身に起きた時空干渉を止めるため、カカオ達が過去の時代に向かってしばらく経った現代。
ネージュの宿屋の一室に残されたのはブオルとオグマ、それに風と氷の大精霊たちだった。
「それでさあ……お、なんかお前さん透けなくなってきたぞ」
気が紛れるようにしばらく話をしていたブオルは、ふと見たオグマの手が先程までと違いはっきりと見えるようになったことに気づく。
『本当だな。私もお前との繋がりを感じるようになってきたぞ』
「そうか、あの頃死んでいたら舞姫との契約もなくなるんだったな」
氷の大精霊、蒼雪の舞姫が呑気な発言をする契約者をじろりと睨みつけた。
『……わかっているのか? 過去のお前が消えるということは、』
「その先で救うはずだったものの消滅も意味している……だろう? リュナンが聞いていたら、また怒られてしまうな」
ばつが悪そうに笑うオグマは、でも、と続ける。
「……諦めていたとかじゃなくて、不思議と焦りや恐怖がなかったんだ。なんとかしてくれる、そのくらいあの子達は成長しているって……直感的なものなんだが」
『根拠がない!』
「す、すまない」
精霊に叱られて縮こまる契約者、というのもなんともおかしな光景だなとブオルがほのぼの傍観していた、その時。
『……けて、』
「ん?」
微かに耳に届いた女性の声に、眉をひそめる。
「風花ちゃん、今なにか言ったか?」
『いいえ……?』
きょとんとする風精霊も、オグマを叱る氷精霊も、その声の主ではないだろう。
となると、部屋の外からか、それとも……?
『助けて……!』
「うおっ!?」
突如空間に開いた穴……時空の精霊もいないのに発生したそこから、すうっと白く細い手がのびる。
そしてブオルの肩を掴むと、それは信じられないほどの力で彼の巨体を穴へと引き摺りこむ。
「ブオル殿っ!」
「な、なんだよ、こりゃあ……っ」
ブオルを助けようと咄嗟にオグマが手をのばしかけた、その瞬間。
『ごめんなさい。少しの間このひと借りるわね』
「えっ……?」
ぽっかり開いた暗闇から聴こえた、甘やかでどこか懐かしい声。
「うわあああっ!」
思わず手を引っ込めてしまったオグマの目の前で、穴はブオルを呑み込んでその口を閉じる。
『ブオル様っ!』
『……おい、どうしたオグマ?』
「い、今の声は……」
処理が追いつかず固まったまま、水浅葱の隻眼をぱちくりさせるオグマ。
「ブオル殿が、連れ去られた……!?」
さっきまでより広くなった部屋でようやくそれだけ呟いた彼は、精霊たちと互いに見合わせるのだった。
ネージュの宿屋の一室に残されたのはブオルとオグマ、それに風と氷の大精霊たちだった。
「それでさあ……お、なんかお前さん透けなくなってきたぞ」
気が紛れるようにしばらく話をしていたブオルは、ふと見たオグマの手が先程までと違いはっきりと見えるようになったことに気づく。
『本当だな。私もお前との繋がりを感じるようになってきたぞ』
「そうか、あの頃死んでいたら舞姫との契約もなくなるんだったな」
氷の大精霊、蒼雪の舞姫が呑気な発言をする契約者をじろりと睨みつけた。
『……わかっているのか? 過去のお前が消えるということは、』
「その先で救うはずだったものの消滅も意味している……だろう? リュナンが聞いていたら、また怒られてしまうな」
ばつが悪そうに笑うオグマは、でも、と続ける。
「……諦めていたとかじゃなくて、不思議と焦りや恐怖がなかったんだ。なんとかしてくれる、そのくらいあの子達は成長しているって……直感的なものなんだが」
『根拠がない!』
「す、すまない」
精霊に叱られて縮こまる契約者、というのもなんともおかしな光景だなとブオルがほのぼの傍観していた、その時。
『……けて、』
「ん?」
微かに耳に届いた女性の声に、眉をひそめる。
「風花ちゃん、今なにか言ったか?」
『いいえ……?』
きょとんとする風精霊も、オグマを叱る氷精霊も、その声の主ではないだろう。
となると、部屋の外からか、それとも……?
『助けて……!』
「うおっ!?」
突如空間に開いた穴……時空の精霊もいないのに発生したそこから、すうっと白く細い手がのびる。
そしてブオルの肩を掴むと、それは信じられないほどの力で彼の巨体を穴へと引き摺りこむ。
「ブオル殿っ!」
「な、なんだよ、こりゃあ……っ」
ブオルを助けようと咄嗟にオグマが手をのばしかけた、その瞬間。
『ごめんなさい。少しの間このひと借りるわね』
「えっ……?」
ぽっかり開いた暗闇から聴こえた、甘やかでどこか懐かしい声。
「うわあああっ!」
思わず手を引っ込めてしまったオグマの目の前で、穴はブオルを呑み込んでその口を閉じる。
『ブオル様っ!』
『……おい、どうしたオグマ?』
「い、今の声は……」
処理が追いつかず固まったまま、水浅葱の隻眼をぱちくりさせるオグマ。
「ブオル殿が、連れ去られた……!?」
さっきまでより広くなった部屋でようやくそれだけ呟いた彼は、精霊たちと互いに見合わせるのだった。