テラの駒たちは何か箍が外れたように言葉や思考を放棄し、どちらかといえば獣を彷彿とさせる本能的な動きに切り替わった。
　一対一で戦っていたかと思えば急に目の前から消え、別のところに加勢、それを見てわらわらと一箇所に集まり、また一体が唐突に離れる……前衛も後衛も関係なく狙われ、法則も統率もあったものではない相手にカカオ達はやりにくさを感じていた。

「きゅ、急に来るから詠唱に集中できないよ！」
「速いしメチャクチャだ！　こんなの防ぎきれるかよっ！」
「キレると怖いタイプだったのねえ……ならこっちも好き勝手やらせてもらいましょう？」

　アングレーズは言いながら地面をつま先でトントンと叩き、小さなゴーレムを数体生み出す。
　いってらっしゃい、と送り出されたそれらは足元を縦横無尽に駆け回り、敵のひとりを転ばせることに成功する。

「ガレ君！」
「承知！」

　好機を逃さずガレが巨大ブーメランを力一杯放り、自らも敵に接近する。
　ブーメランは一瞬闇に消え、体勢を立て直しかけた化物は辺りを見回すが、

「にゃあッ！」

　自前の鋭い爪で切り裂きながら駆け抜けたガレの後ろで、再び姿を見せたブーメランが直撃する音がした。
　どちらにも対応できなかった化物が砂になって崩れ去り、まずは一体撃破。

「やるじゃん、猫のひと！」
「猫ではないでござるー！」

　パンキッドに反論しながらも敵の数が減ったのを幸いにと後衛のガードにつくガレ。
　動きがメチャクチャでバラバラな相手でも、一体ずつ確実に数を減らせばこちらが動きやすくなり、翻弄されなくなるだろう。

「よぉし、そんじゃアタシもいくよ！」

　ニッと笑って宣言すると、パンキッドが敵の懐に迫る。
　鋭利な両腕の反撃をくらい、少女の肌に僅かに傷を作るが構わず彼女は敵の胸部……薄い板のようなそこを踏み台に駆け上がり、空中でくるりと縦に回転する。

「よっ、と」

　その流れで左右の腕に装備したトンファーの先を飾る丸い石を真っ直ぐに相手に向け……

「くらいなッ！」

　咆哮と同時に石にこめたマナを衝撃波として放つ。
　サラマンドルの闘技場でも見せたそれは破壊力抜群で、反動を利用してさらに後方に飛んだパンキッドが着地した時には化物は衝撃で粉々になっていた。

「よし、一丁あがり！」
「やっぱりすごいぱわーでござるな……」

　後方ではクローテが足元に術を仕掛け、アングレーズとモカに近寄らせないよう相手の動きを阻害して。
　また別のところではカカオとメリーゼが連携で一体を倒したところだった。

　最初こそ意表を突いた動きに圧倒されていたカカオ達だったが、次第に形勢が傾いていく。

　そして……

「お前で最後だな」
「グ、オオ……」

　残ったのは、奇しくも最初にリィムと戦っていたものだった。
　一度外れてしまってからは元に戻れないのか、もはや最初のような思考や感情はなくなっていた。

「ジャマモノ、ジャマ、ハイジョ……」

　唯一強く残った憎悪のみで動くそんな姿に、いつぞや戦った時に感じた“使い捨ての駒”という言葉がよぎった。

「……この時代を生きたひとが選んだ道、掴んだ未来を邪魔してるのはそっちだろ」

　シーグリーンの三白眼が鋭さを増す。
　戦鎚の柄をぐっと握ったカカオは、哀れさすら漂う人形を見据えると、狙いを定め……

「じゃあな」

　低く、そう吐き捨てた。