33~消えない罪~

 緑が茂る木々やそよぐ風は消え、何もない異空間は時空の精霊が作り出したもの。
 周囲に影響を及ぼさず、また何者にも目撃されることのない、時空干渉を阻止しに異なる時代から来た来た旅芸人一座……もとい、カカオ達には絶好の活動空間だ。

「こりゃあ、すごいね……」

 辺りを見回しても果てのなさそうなそこに、パンキッドが感嘆の声を漏らす。

「お前がいくら暴れても自然破壊しなくて済むし、目撃者もいないからやりたい放題だぞ!」
「殺風景なのがアレだけど、そう言われたら張り切るしかないね!」

 カカオの言葉に嬉々として武器を構える彼女の目は獲物を前にぎらついていた。
 互いに裏や含みのない爽やかなやりとりを横目に「パン姐って絶対嫌味とか通じないよね……」とモカが溜息を吐く。

「貴様がテラ様の言っていた邪魔者か……時空の精霊までいるとは厄介な連中め」
「こっちからしたらお邪魔なのはそっちでござるよ!」

 図形を組み合わせた無機質な人形が、目鼻のない顔でカカオ達を睨む。
 数はどうやらこちらより少なく、一体一体も大したことなさそうだが……

「複数相手は初めてたが、並んでいるのを見ると不気味さが増すな……」
「みんな似たような姿で揃ってるからねえ。連携とか得意だったりして」

 見た目の統一感は間違いなくあちらの方が上だろう、と冗談まじりに言いながら、詠唱のため退くモカ。

「あの女騎士といい、お前らといい、馬鹿にしやがって……!」

 ギギ、と関節らしき部分が軋む音。
 テラの刺客は二足歩行でヒトの形に見せかけてはいるが、わなわなと震えながら四肢や頭がおかしな方向に曲がったり回転するちぐはぐな姿は不気味で、ついには破裂したような音をさせて頭から煙を出してしまう。

「ジャ、邪魔者……ジャマモノ! テラ様ノ計画ノ、ジャマモノ……!」
「うわ、壊れた!?」

 頭と両腕をだらりと垂らした化物は、その低い体勢から一気に加速して潜り込むように距離を詰め、反応が遅れたモカに狙いをつける。

「うわわっ!」
「ちっ……!」

 高い身体能力と優れた五感ゆえか近くにいたクローテが咄嗟に割って入って防御する。
 簡易的に張った水の衣がある程度防いでくれたお陰で、鋭く斬り込まれた割に彼の傷は浅く済んだ。

「ご、ごめん、クロ兄……」
「このぐらい問題ない。それより、慣れた相手だからと油断するな」

 バリアに弾かれて退いた化物の後ろでは、その仲間達が同様に次々と壊れた人形のような不気味な動きを始め……

「これは、今までの相手とはちょっと違うみたいですね……」
「どのみちアタシにゃ初見さ。どんな相手でも、やれるようにやるだけだよ!」

 警戒を強めるメリーゼと、構わず立ち向かうパンキッド。

「ぐギ、ゲゲ……」
「言葉もあやしくなってきたわ……何をしでかすかわからないわよ」
「ぶ、不気味さ増し増しでござるなあ……」

 他の仲間もそれぞれ武器を構え、戦いの幕が上がった。
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