3~有り得た未来、有り得ない出逢い~
と、話があまり進まない王の部屋のドアを、コンコンと、控え目な音を立てて開ける者がいた。
「あら、今日はにぎやかねトランシュ。お茶菓子がいるかしら?」
「やあ、フローレット」
淡いグリーンの長い髪に華美が過ぎないドレスまで花の香りを微かに纏わせた淑やかな美女……英雄王の妻、フローレット王妃。
彼女は部屋に入ってモカに気付くと、ふわりと柔らかな微笑みを見せた。
「モカちゃん、どうしたの? またなにか面白いものが出来たのかしら?」
「うん、あのねー、ボクのびっくりどっきりボックスにね……」
言いながらモカは部屋の隅に置かれた、ここに来るまでは大事そうに背負っていた箱に視線を移す。
と、
「きゃっ!?」
フローレットの短い、驚いた悲鳴がモカの目を再び彼女に引き戻した。
「な、なにかしらこれ……体が、消えて……」
「フローレットっ!」
手先足先から薄れて消えかかるフローレットに、咄嗟に伸ばしたトランシュの手までもが同様になっていて。
叔父と叔母のそんな姿にはさすがのモカも驚愕にルビー色の目を見開き、立ち上がった。
「こ、これがさっき言ってた時空干渉ってやつ……!?」
「そうだけど、今度はふたりいっぺんかよ!」
ガトーの件で一度は知っていたカカオも、ふたりが同時に消えようとする光景には思わずランシッドを見る。
『どっちかが干渉を受けて、それによってもう片方の存在も消えようとしているんだ……トランシュ、過去にそういう心当たりはある?』
「どっちかが……たぶん、それだとしたら干渉を受けているのはフローレットの方だ」
えっ、と声をあげるフローレットをよそに、トランシュの言葉は続く。
「二十年前、彼女は一度僕への人質として拐われたことがある。その時にもしものことがあったら、恐らく僕は……」
『オッケー、特定した。メリーゼ、みんな、今は戦える人を探す時間が惜しい。悪いけどもう一回だけ協力して!』
過去に跳んだ経験のある三人は顔を見合わせると、躊躇なく頷く。
するとそこに、
「ボクもっ……ボクも行く!」
床に置かれていた箱を背負ったモカが、肩のベルトをぎゅっと握ってそう宣言した。
「だから遊びじゃねーって……」
「ちがうよ!」
その語気は強く、いつになく真剣さが伝わってくる。
「だって、さっきの話だとトラおじちゃん達が消えちゃうかもしれないんでしょ? ここでただ待ってるなんてやだよ!」
「行った先じゃたぶん強いヤツと戦闘になるぞ! お前には危険だって……」
「カカオ兄ちゃんだって一般人じゃん! だったら尚更、このびっくりどっきりボックスの出番だよ!」
彼女の本気は認めるが、それでもこんな小さな少女を危険な目に遭わせる訳にはいかない。
過去で遭遇した刺客は三人で戦ってようやく倒せたほどの強さで、足手まといを気にしていられる余裕もないだろうが……
「……モカは魔術も使えたな。危なくないように後方から援護はできるはずだ」
その背中を押したのは、意外にも日頃モカの迷惑ぶりに悩まされていたであろうクローテだった。
「クロー……っ」
『時間がない、いくよ!』
一刻の猶予もないと判断したランシッドは戸惑うカカオもモカもまとめて過去へ転移させる。
そして一気に静かになった王の部屋には部屋の主とその妻のみが残されており、
「何かしら、話が見えないけど……無事に帰って来てね、みんな」
「……そうだね。それにしても……」
やっぱり僕も行きたかったな。
まだ諦めていなかったのかぽつりとそう呟いたトランシュは即座に「ダメよ」と妻に叱られるのだった。
「あら、今日はにぎやかねトランシュ。お茶菓子がいるかしら?」
「やあ、フローレット」
淡いグリーンの長い髪に華美が過ぎないドレスまで花の香りを微かに纏わせた淑やかな美女……英雄王の妻、フローレット王妃。
彼女は部屋に入ってモカに気付くと、ふわりと柔らかな微笑みを見せた。
「モカちゃん、どうしたの? またなにか面白いものが出来たのかしら?」
「うん、あのねー、ボクのびっくりどっきりボックスにね……」
言いながらモカは部屋の隅に置かれた、ここに来るまでは大事そうに背負っていた箱に視線を移す。
と、
「きゃっ!?」
フローレットの短い、驚いた悲鳴がモカの目を再び彼女に引き戻した。
「な、なにかしらこれ……体が、消えて……」
「フローレットっ!」
手先足先から薄れて消えかかるフローレットに、咄嗟に伸ばしたトランシュの手までもが同様になっていて。
叔父と叔母のそんな姿にはさすがのモカも驚愕にルビー色の目を見開き、立ち上がった。
「こ、これがさっき言ってた時空干渉ってやつ……!?」
「そうだけど、今度はふたりいっぺんかよ!」
ガトーの件で一度は知っていたカカオも、ふたりが同時に消えようとする光景には思わずランシッドを見る。
『どっちかが干渉を受けて、それによってもう片方の存在も消えようとしているんだ……トランシュ、過去にそういう心当たりはある?』
「どっちかが……たぶん、それだとしたら干渉を受けているのはフローレットの方だ」
えっ、と声をあげるフローレットをよそに、トランシュの言葉は続く。
「二十年前、彼女は一度僕への人質として拐われたことがある。その時にもしものことがあったら、恐らく僕は……」
『オッケー、特定した。メリーゼ、みんな、今は戦える人を探す時間が惜しい。悪いけどもう一回だけ協力して!』
過去に跳んだ経験のある三人は顔を見合わせると、躊躇なく頷く。
するとそこに、
「ボクもっ……ボクも行く!」
床に置かれていた箱を背負ったモカが、肩のベルトをぎゅっと握ってそう宣言した。
「だから遊びじゃねーって……」
「ちがうよ!」
その語気は強く、いつになく真剣さが伝わってくる。
「だって、さっきの話だとトラおじちゃん達が消えちゃうかもしれないんでしょ? ここでただ待ってるなんてやだよ!」
「行った先じゃたぶん強いヤツと戦闘になるぞ! お前には危険だって……」
「カカオ兄ちゃんだって一般人じゃん! だったら尚更、このびっくりどっきりボックスの出番だよ!」
彼女の本気は認めるが、それでもこんな小さな少女を危険な目に遭わせる訳にはいかない。
過去で遭遇した刺客は三人で戦ってようやく倒せたほどの強さで、足手まといを気にしていられる余裕もないだろうが……
「……モカは魔術も使えたな。危なくないように後方から援護はできるはずだ」
その背中を押したのは、意外にも日頃モカの迷惑ぶりに悩まされていたであろうクローテだった。
「クロー……っ」
『時間がない、いくよ!』
一刻の猶予もないと判断したランシッドは戸惑うカカオもモカもまとめて過去へ転移させる。
そして一気に静かになった王の部屋には部屋の主とその妻のみが残されており、
「何かしら、話が見えないけど……無事に帰って来てね、みんな」
「……そうだね。それにしても……」
やっぱり僕も行きたかったな。
まだ諦めていなかったのかぽつりとそう呟いたトランシュは即座に「ダメよ」と妻に叱られるのだった。