31〜蒼雪の使者〜

 一度時空の裂け目を閉じてしまえば帰路は緩やかなもので……といってもそれは冒険慣れした彼らだからこそなのだが、少なくとも景観に相応しくない異質な黒い魔物の姿は見なくなった。

 担がれたオグマはというと、どうにか説得して降ろしてもらったものの「次ふらついたら宿屋まで担いでいくからな」と釘を刺されてしまった。

「グラッセのおっさん、なんでさっきはオレ達にあんな他人行儀だったんだ?」
「おっさんはやめろと……交代に向かう途中、逃げてくる魔物が増えてきたし、オグマの限界が近いんだろうと思ってな」

 だから呑気に話してる時間が惜しかった、とグラッセはカカオから目をそらしながら語る。
 そんな彼にモカはにやにやといやらしい笑みを浮かべ、アングレーズも意味ありげな微笑を向けた。

「……なんだ」
「いいえ、うふふふ」

 どうせろくなことを考えていないのだろう、とそっぽを向いたグラッセは隣を歩くオグマにも笑顔を向けられていたことに気付く。

「お前までなんだ⁉」
「いや、気に懸けてくれてありがとう」
「……うるさい。喋る元気が残っているなら温存しておけ」

 これ以上いじられたくないのか、歩調を早めてさっさと先へ行ってしまうグラッセ。

『本当に、変わりましたね』
「ああ。もうすっかり家族で、騎士団の仲間……そして“人間”だ」

 清き風花の言葉に、オグマもしみじみと頷く。
 その意味がわかるのは、ごく限られた者だけである。

「いろいろあったみたいだな」
「はい。そしてそれはカカオ達も、貴方も……スタード殿の父上、ブオル・ティシエール殿、ですよね?」

 オグマに名前を言い当てられたブオルは、大きく目を見開いた。
 隠してるつもりだったのだろうと思ったガレが「バレバレでござったな」と苦笑いをするが……

「騎士団の人間なのに“ブオル子さん”って言わなかったあああああ!」

 なんて大袈裟に感涙する大男に「そっち⁉」と周りから一斉に声があがるのだった。
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