31〜蒼雪の使者〜
『って、見惚れてる場合じゃないよ! 裂け目を閉じなきゃ!』
僅かな間に起きた出来事に一行はしばし心奪われていたが、いち早く使命を思い出した時精霊が空間の穴の前に進み出た。
「あれは……」
いつもの省エネ小動物の姿ではない、灰桜の髪の青年が現れると、戦闘を終えたふたりが彼を注視する。
『今回のは規模が小さくて良かったよ。これなら大した消耗もなく閉じられる……とはいえ、どのみち放置できるものじゃないけどね』
そう言いながら両手を宙にかざして仕事をしていく精霊に、ふたりが歩み寄った。
「もしかして、カッセが呼んだ助けというのは……君たち、なのか」
よく見れば二人は髪や目の色は同じでどちらも細身の長身で美形に分類されるだろう壮年の男性。
王都騎士団が着るような服装をしているが、長髪の術者は白と青が基調のマントとローブ、先刻道中で出会った男は黒ずくめでかっちりしているが動きを妨げない格好だ。
顔の造りも似ているようで前者は穏やか優しげ、後者は鋭くきつめと受ける印象は対照的だった。
兄弟か何かだろうか、とカカオ達の中で彼らを知らない数人は思った。
「オグマさん、グラッセのおっさん!」
カカオがそう呼ぶと黒衣の男は顔を引き攣らせて固まり、そしてもう片方は吹き出した。
「カカオ……なんで奴がさんづけで俺だけおっさん呼ばわりなんだ? おいそこ、笑うな」
「ふっ、くくく、す、すまない……そうか、グラッセもついにおじさんか……ふふ」
「お前っ、俺より年上のくせに……!」
おっさんと呼ばれた黒衣……グラッセが、笑いを堪えるオグマの胸倉を掴んで睨む。
「えーと、知り合い?」
「ああ。オレにとってはガトーじいちゃんが息子みたいに思ってる人たちで……」
「わたしやクローテ君にとっては騎士団の隊長さんで、魔術と剣術の師でもあります」
カカオとメリーゼがそう説明するとパンキッドがへええとオグマ達に視線を向けた。
『もうひとつ重要なことが抜けてるよ。オグマは二十年前の仲間のひとりだって』
『契約精霊は氷の……“蒼雪の舞姫”さんです』
ランシッドと清き風花の補足に応じるように、青い髪に蒼白の肌、きりりとした目の女性が姿を見せる。
『呼んだか』
「これが氷の大精霊か……ホイップにちょっと雰囲気が似てる、凛とした美人さんだなあ」
今は遠い時の彼方にいる妻を思い出し、元気かな、と内心で呟くブオル。
しかしその思考は、ランシッドの咳払いに遮られた。
『あー……とりあえずオグマ達はずっとここで魔物を食い止め続けて疲れたでしょ? 一度ネージュに戻って休んだ方がいいと思うんだけど』
「心配はいらない。互いに交代して休んでいたしここの精霊達が力を貸してくれたお陰でなんとも……」
笑顔で返すオグマの言葉はしかし大きくよろめいて止まってしまう。
慌てて受け止めたグラッセによって、無防備な後頭部が氷の地面と激突することは避けられた。
「その交代に来たんだ、馬鹿。ただの人間が無茶をしすぎだ」
言いながらグラッセはけっして逞しい方ではない腕で同じぐらいの背格好のオグマをひょいと肩に担いだ。
ふわり、拍子に前髪に隠れた右目の傷跡とマントの下の空っぽの右袖が垣間見える。
「わっ、私はまだ……」
「いいから休んでいろ。遠足メンバーでもお前ひとりぐらい守れる」
『そうだな、オグマは少し休め。私はソルヴェンにもう結界は必要ないと伝えてくる』
てきぱきと話を進めて姿を消す氷精霊とオグマを担いだまま元来た道を歩き出すグラッセ。
そんな彼らを見たブオルの感想は、
「仲良し兄弟……かな?」
であった。
僅かな間に起きた出来事に一行はしばし心奪われていたが、いち早く使命を思い出した時精霊が空間の穴の前に進み出た。
「あれは……」
いつもの省エネ小動物の姿ではない、灰桜の髪の青年が現れると、戦闘を終えたふたりが彼を注視する。
『今回のは規模が小さくて良かったよ。これなら大した消耗もなく閉じられる……とはいえ、どのみち放置できるものじゃないけどね』
そう言いながら両手を宙にかざして仕事をしていく精霊に、ふたりが歩み寄った。
「もしかして、カッセが呼んだ助けというのは……君たち、なのか」
よく見れば二人は髪や目の色は同じでどちらも細身の長身で美形に分類されるだろう壮年の男性。
王都騎士団が着るような服装をしているが、長髪の術者は白と青が基調のマントとローブ、先刻道中で出会った男は黒ずくめでかっちりしているが動きを妨げない格好だ。
顔の造りも似ているようで前者は穏やか優しげ、後者は鋭くきつめと受ける印象は対照的だった。
兄弟か何かだろうか、とカカオ達の中で彼らを知らない数人は思った。
「オグマさん、グラッセのおっさん!」
カカオがそう呼ぶと黒衣の男は顔を引き攣らせて固まり、そしてもう片方は吹き出した。
「カカオ……なんで奴がさんづけで俺だけおっさん呼ばわりなんだ? おいそこ、笑うな」
「ふっ、くくく、す、すまない……そうか、グラッセもついにおじさんか……ふふ」
「お前っ、俺より年上のくせに……!」
おっさんと呼ばれた黒衣……グラッセが、笑いを堪えるオグマの胸倉を掴んで睨む。
「えーと、知り合い?」
「ああ。オレにとってはガトーじいちゃんが息子みたいに思ってる人たちで……」
「わたしやクローテ君にとっては騎士団の隊長さんで、魔術と剣術の師でもあります」
カカオとメリーゼがそう説明するとパンキッドがへええとオグマ達に視線を向けた。
『もうひとつ重要なことが抜けてるよ。オグマは二十年前の仲間のひとりだって』
『契約精霊は氷の……“蒼雪の舞姫”さんです』
ランシッドと清き風花の補足に応じるように、青い髪に蒼白の肌、きりりとした目の女性が姿を見せる。
『呼んだか』
「これが氷の大精霊か……ホイップにちょっと雰囲気が似てる、凛とした美人さんだなあ」
今は遠い時の彼方にいる妻を思い出し、元気かな、と内心で呟くブオル。
しかしその思考は、ランシッドの咳払いに遮られた。
『あー……とりあえずオグマ達はずっとここで魔物を食い止め続けて疲れたでしょ? 一度ネージュに戻って休んだ方がいいと思うんだけど』
「心配はいらない。互いに交代して休んでいたしここの精霊達が力を貸してくれたお陰でなんとも……」
笑顔で返すオグマの言葉はしかし大きくよろめいて止まってしまう。
慌てて受け止めたグラッセによって、無防備な後頭部が氷の地面と激突することは避けられた。
「その交代に来たんだ、馬鹿。ただの人間が無茶をしすぎだ」
言いながらグラッセはけっして逞しい方ではない腕で同じぐらいの背格好のオグマをひょいと肩に担いだ。
ふわり、拍子に前髪に隠れた右目の傷跡とマントの下の空っぽの右袖が垣間見える。
「わっ、私はまだ……」
「いいから休んでいろ。遠足メンバーでもお前ひとりぐらい守れる」
『そうだな、オグマは少し休め。私はソルヴェンにもう結界は必要ないと伝えてくる』
てきぱきと話を進めて姿を消す氷精霊とオグマを担いだまま元来た道を歩き出すグラッセ。
そんな彼らを見たブオルの感想は、
「仲良し兄弟……かな?」
であった。