30~北へ~

 穏やかな気候で緑豊かな中央大陸グランマニエ。
乾いた大地、温度差激しく日中は暑さ極まる砂漠も広がる東大陸ジャンドゥーヤ。
 カカオ達が次に訪れた北大陸のクリスタリゼはそのどちらとも異なっていて、

「さっっっっっっむい!!」

 北大陸の入口となる港にて。
 カッセから渡された防寒具を羽織り、それでも寒さに震えるパンキッドの一声が、仲間達の心を代弁していた。

「時空干渉の関係で前にほんの一瞬だけ来たけど、今度はしばらくここで行動するんですね……」
「んー、久し振りだなこの空気!」 

 白い息を吐きながら辺りを見回すメリーゼの横で、カカオが呑気に背伸びをする。

「そういえばカカオはここ出身なんだよな」
「ああ。霊峰の近くにあるネージュって街だけどな」

 ブオルや他の仲間に地図を開いて見せ、道を指先でなぞりながら故郷を説明する。

「こう行って……道なりに行けば迷うことはないと思うぜ」
「じゃあまずは霊峰に向かう準備も兼ねて、そこを目指して行くようだな」
「ああ。けど……できればうちには寄らないでくれないか?」

 カカオからの申し出には、仲間達からの疑問の視線が集まってきた。

「状況的にも寄ってる時間はないと思うし、何より……職人になるんだって出ていったのも、今の旅のことも、どっちも中途半端な状態だからさ。だから、今はまだ……」

 言葉を選びながら語るカカオの目には、いい加減な気持ちは見えない。

「……わかった。どっちみち優先すべきは霊峰の件だからな」
「ありがとな、おっさん」

 他からも反対の声はあがらず話が一段落したところで、一際冷たい風が一行を震え上がらせた。

「ひえぇっ」
「それはそうと、こ、こんなに寒くちゃ、かかか活動できない、よ」
「そっ、そういえばちちうえが腕輪の石に火のマナを込めろって言ってたでござる!」

 そういう事は早く言ってよと喚きながら、火のマナの扱いに一番長けたモカが腕輪を飾る石に意識を集中させる。
 石からのびた赤い光が他の仲間の腕輪に繋がり、そこからまた別の仲間へとのびていく。

「わっ」

 不思議な感覚に思わず声を発したのはパンキッド。
 光を受け取った途端にじんわりとしたあたたかさが全身にひろがって寒さが和らいだ。

「あったかいでござるなぁ……」
「これならやかましい寒がりも静かになるな」
「あっひどいでござるクローテどの! 騒いでなかっただけで震えてたのはクローテどのもいっしょでござろう!?」

 寒さから解放された途端に賑やかになる若人達を微笑ましく見守るブオルとランシッド。

 そんなこんなでカカオ達は極寒の北大陸、クリスタリゼに降り立ったのであった。
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