30~北へ~
闘士の都サラマンドル、宿屋の一室にて。
闘技場で出会った少女、パンキッドを新たに仲間に加えたカカオ達は、そのまま次にどこへ向かおうか話し合うことにした。
「アングレーズ、予知に関してはこれで済んだのか?」
「ええ、そうみたいね。あれから新たに何か感じることも、胸がざわつくこともなくなったわ」
そもそもこの街を訪れた理由が、断片的とはいえ未来予知能力をもつ神子姫、アングレーズの予感から始まっていた。
そして彼女の言葉どおり事件は起こり、闘技場には時空を超えて“総てに餓えし者”の眷属が現れた。
魔物の恐怖が去って久しい現代では対応が遅れ、腕輪をもつカカオ達がいなければ恐らく少なからず犠牲者が出ていたのだろう……幸いそんな悲劇は避けられたが。
空間の穴はランシッドが閉じたため、ひとまずは安心していいはずだ。
「なら次はどこに行けばいいんだ?」
疑問がぽんとカカオの口から出た。
時空干渉により歴史を歪められた箇所の情報でもあればすぐさま向かうべきだろうが……
と、部屋のドアがやや籠った音で数回ノックされる。
「ん、誰だ?」
「失礼、カッセでござる」
その一瞬で、カカオ達の視線がガレに集まり、何事かとパンキッドも彼を振り返った。
カッセの息子であり、十五年後の未来からやって来たガレはマンジュの里にいるちびっことは思えないほど成長しきっているが、その特徴的すぎる風貌が他人とごまかせる範囲かどうかは怪しいところだ。
「? いかがいたした?」
ドアの向こうから訝しむカッセにどうしたものか……ガレは近くにあったベッドのシーツを被り、目立つ猫耳と尻尾、それに手足を隠した。
逆に怪しい姿になってないか、とクローテが内心でつっこみを入れている間に扉はゆっくりと開き……
「ど、どうしたんだ? わざわざこんな所に来て」
「長からの言葉を伝えに来たのでござる。北大陸の霊峰に異常あり、と」
それから、と付け加えてカッセはシーツに隠れたガレを一瞥し、溜め息まじりに赤銅の猫目を細める。
「……大きいガレ君によろしく、とも言っていたでござる。だから隠れなくても大丈夫だ、ガレ。それにアングレーズ殿も」
「にゃんと!?」
「あら、やっぱり?」
驚きにガレが顔を上げると短い役割を終えたシーツがするり、滑り落ちた。
「マンジュの情報網を甘く見るな。そうでなくても……お前のことがわからない訳がない。大きくなってもそうやって拙者に似て寒がりなところや、昔から変わらず嘘が下手なところとかな」
「ち、ちちうえ……」
優しげに微笑む父と、情けない顔をする息子の身長差はすっかり逆転してしまっているが、その空気は確かに親子のもの。
似ても似つかない体格や雰囲気の差に「えっ、父親……?」なんて声を漏らすパンキッドには、あとで説明するよと仲間達が笑いかけた。
しかし、それも軽い咳払いをひとつして切り替わる。
「……本題は北大陸のことでござる。港に船を待たせているゆえ、向かいながら話そう」
すっと背筋の伸びた姿は、ガレが憧れるマンジュの隠密にして英雄のそれであった。
闘技場で出会った少女、パンキッドを新たに仲間に加えたカカオ達は、そのまま次にどこへ向かおうか話し合うことにした。
「アングレーズ、予知に関してはこれで済んだのか?」
「ええ、そうみたいね。あれから新たに何か感じることも、胸がざわつくこともなくなったわ」
そもそもこの街を訪れた理由が、断片的とはいえ未来予知能力をもつ神子姫、アングレーズの予感から始まっていた。
そして彼女の言葉どおり事件は起こり、闘技場には時空を超えて“総てに餓えし者”の眷属が現れた。
魔物の恐怖が去って久しい現代では対応が遅れ、腕輪をもつカカオ達がいなければ恐らく少なからず犠牲者が出ていたのだろう……幸いそんな悲劇は避けられたが。
空間の穴はランシッドが閉じたため、ひとまずは安心していいはずだ。
「なら次はどこに行けばいいんだ?」
疑問がぽんとカカオの口から出た。
時空干渉により歴史を歪められた箇所の情報でもあればすぐさま向かうべきだろうが……
と、部屋のドアがやや籠った音で数回ノックされる。
「ん、誰だ?」
「失礼、カッセでござる」
その一瞬で、カカオ達の視線がガレに集まり、何事かとパンキッドも彼を振り返った。
カッセの息子であり、十五年後の未来からやって来たガレはマンジュの里にいるちびっことは思えないほど成長しきっているが、その特徴的すぎる風貌が他人とごまかせる範囲かどうかは怪しいところだ。
「? いかがいたした?」
ドアの向こうから訝しむカッセにどうしたものか……ガレは近くにあったベッドのシーツを被り、目立つ猫耳と尻尾、それに手足を隠した。
逆に怪しい姿になってないか、とクローテが内心でつっこみを入れている間に扉はゆっくりと開き……
「ど、どうしたんだ? わざわざこんな所に来て」
「長からの言葉を伝えに来たのでござる。北大陸の霊峰に異常あり、と」
それから、と付け加えてカッセはシーツに隠れたガレを一瞥し、溜め息まじりに赤銅の猫目を細める。
「……大きいガレ君によろしく、とも言っていたでござる。だから隠れなくても大丈夫だ、ガレ。それにアングレーズ殿も」
「にゃんと!?」
「あら、やっぱり?」
驚きにガレが顔を上げると短い役割を終えたシーツがするり、滑り落ちた。
「マンジュの情報網を甘く見るな。そうでなくても……お前のことがわからない訳がない。大きくなってもそうやって拙者に似て寒がりなところや、昔から変わらず嘘が下手なところとかな」
「ち、ちちうえ……」
優しげに微笑む父と、情けない顔をする息子の身長差はすっかり逆転してしまっているが、その空気は確かに親子のもの。
似ても似つかない体格や雰囲気の差に「えっ、父親……?」なんて声を漏らすパンキッドには、あとで説明するよと仲間達が笑いかけた。
しかし、それも軽い咳払いをひとつして切り替わる。
「……本題は北大陸のことでござる。港に船を待たせているゆえ、向かいながら話そう」
すっと背筋の伸びた姿は、ガレが憧れるマンジュの隠密にして英雄のそれであった。