29~もうひとつの冒険~
「……さて、オレからもうひとつ話がある。あいつらを追うというなら、知っておいた方がいい話だ」
デューはそう言うと刃がほぼ砕け、柄だけになってしまった大剣を取り出した。
「それは……」
「オアシスで少し前に戦った“化物”にやられた」
パスティヤージュに戻る前に触れた話の続きか、とシーフォンが身構える。
僅かばかり、デューの目に陰が落ちた。
「クローテとガレ……お前はたぶん知らないと思うが、新たに加わった仲間がいてな。その二人が別行動で仲間と離れていたところを襲ってきたんだ。オレはたまたまそれを察知した水辺の乙女に連れられて、オアシスで二人を殺そうとした化物と戦った」
『一応、道化師のような女性の姿でしたが分身と言っていましたし、どうやら力の一部しか見せていないようでした。その力も、真の姿も、明らかになっていません』
姿を見せた水精霊が契約者の言葉を引き継ぎ、補足する。
『そんな相手の攻撃をデューはどうにか剣で弾き飛ばしましたが……その結果がこの剣の無惨な姿です。たまたま化物が退いてくれなければ……』
「……デュランダルでも、勝てない相手だというのか」
フィノも不安げに俯き、ごくり、と我知らずシーフォンの喉が鳴る。
英雄と呼ばれる男が剣を砕かれるなど、なんて絶望的な響きだろうか。
「いやあ、オレだって本腰入れればもうちょっといい勝負が出来たさ」
『勝てる、と断言しないあたりが正直ですね』
痛いところを突かれたのだろうデューが、うぐっと息を詰まらせた。
「……とにかくだ。その化物は今までの時空干渉……お前が消えかけたアレだな。そいつを引き起こした犯人らしい」
「!」
「お前だけじゃない。二十年前……オレ達の旅に関わった人間の何人かが、そいつに過去を弄られて存在を消されかけた。お前の場合は、両親がそうなったから間接的にお前も影響が出たってことだ」
その言葉を聞いて、シーフォンの中でかちりと音を立てて話が繋がった。
メリーゼの父親は確か自分の遠い先祖で、死後に時空の精霊になったんだと父から聞いていた。
「そうか……その時空干渉を食い止めていたのがメリーゼ達なのか」
「そういうこった。それで、だ」
デューは藍鉄の目でしっかりとシーフォンを見つめ直すと、改めて口を開く。
「メリーゼ達を追う、ついて行くというなら、そのとんでもない化物ともぶち当たることになるだろう。今の実力じゃ当然敵わないし、まず命を落とすだろう。それでもお前は行くのか?」
帰るなら王都まで送ってやるぞと付け足して。
悪戯を仕掛けて城を抜け出して城下町を遊び歩く、そんないつもの冒険とは違うことは、シーフォンもとうに知っていたが……
「決まっているさ」
返ってきた声はいつもの彼らしい爽やかさに、すっと一本の芯が通ったもので、
「やっぱり行くよ。メリーゼが危ないってわかったからね」
「けどシーフォン君、」
「僕の“今の実力じゃ”敵わないってだけだろう? そして僕なりの強さ、目指す場所があるってわかったんだ。まだまだ僕は強くなれる!」
心配するフィノにそう言い放つ、無駄に爽やかな誰かさんとよく似た笑顔。
ややあって、精霊王とデューが同時に吹き出した。
『くっ、ふふふ、なるほどな、確かに血筋だ』
「けど、その道を選ぶっていうなら甘くねーぞ。みっちり鍛えねーとな、シーフォン」
あと、とりあえず今日はちゃんと休め。
強気な王子にそれだけ言って、デューはその頭をわしゃっと撫でた。
デューはそう言うと刃がほぼ砕け、柄だけになってしまった大剣を取り出した。
「それは……」
「オアシスで少し前に戦った“化物”にやられた」
パスティヤージュに戻る前に触れた話の続きか、とシーフォンが身構える。
僅かばかり、デューの目に陰が落ちた。
「クローテとガレ……お前はたぶん知らないと思うが、新たに加わった仲間がいてな。その二人が別行動で仲間と離れていたところを襲ってきたんだ。オレはたまたまそれを察知した水辺の乙女に連れられて、オアシスで二人を殺そうとした化物と戦った」
『一応、道化師のような女性の姿でしたが分身と言っていましたし、どうやら力の一部しか見せていないようでした。その力も、真の姿も、明らかになっていません』
姿を見せた水精霊が契約者の言葉を引き継ぎ、補足する。
『そんな相手の攻撃をデューはどうにか剣で弾き飛ばしましたが……その結果がこの剣の無惨な姿です。たまたま化物が退いてくれなければ……』
「……デュランダルでも、勝てない相手だというのか」
フィノも不安げに俯き、ごくり、と我知らずシーフォンの喉が鳴る。
英雄と呼ばれる男が剣を砕かれるなど、なんて絶望的な響きだろうか。
「いやあ、オレだって本腰入れればもうちょっといい勝負が出来たさ」
『勝てる、と断言しないあたりが正直ですね』
痛いところを突かれたのだろうデューが、うぐっと息を詰まらせた。
「……とにかくだ。その化物は今までの時空干渉……お前が消えかけたアレだな。そいつを引き起こした犯人らしい」
「!」
「お前だけじゃない。二十年前……オレ達の旅に関わった人間の何人かが、そいつに過去を弄られて存在を消されかけた。お前の場合は、両親がそうなったから間接的にお前も影響が出たってことだ」
その言葉を聞いて、シーフォンの中でかちりと音を立てて話が繋がった。
メリーゼの父親は確か自分の遠い先祖で、死後に時空の精霊になったんだと父から聞いていた。
「そうか……その時空干渉を食い止めていたのがメリーゼ達なのか」
「そういうこった。それで、だ」
デューは藍鉄の目でしっかりとシーフォンを見つめ直すと、改めて口を開く。
「メリーゼ達を追う、ついて行くというなら、そのとんでもない化物ともぶち当たることになるだろう。今の実力じゃ当然敵わないし、まず命を落とすだろう。それでもお前は行くのか?」
帰るなら王都まで送ってやるぞと付け足して。
悪戯を仕掛けて城を抜け出して城下町を遊び歩く、そんないつもの冒険とは違うことは、シーフォンもとうに知っていたが……
「決まっているさ」
返ってきた声はいつもの彼らしい爽やかさに、すっと一本の芯が通ったもので、
「やっぱり行くよ。メリーゼが危ないってわかったからね」
「けどシーフォン君、」
「僕の“今の実力じゃ”敵わないってだけだろう? そして僕なりの強さ、目指す場所があるってわかったんだ。まだまだ僕は強くなれる!」
心配するフィノにそう言い放つ、無駄に爽やかな誰かさんとよく似た笑顔。
ややあって、精霊王とデューが同時に吹き出した。
『くっ、ふふふ、なるほどな、確かに血筋だ』
「けど、その道を選ぶっていうなら甘くねーぞ。みっちり鍛えねーとな、シーフォン」
あと、とりあえず今日はちゃんと休め。
強気な王子にそれだけ言って、デューはその頭をわしゃっと撫でた。