29~もうひとつの冒険~
デューとフィノがサラマンドル方面へ向かう街道を行けば、パスティヤージュを飛び出したシーフォンに追いつくのは、案外容易だった。
「ぐっ……どいてくれ! 僕はサラマンドルに行かなきゃならないんだ!」
長剣を片手に盾を構え、魔物と対峙する王子は長旅の疲労が蓄積しているのか動きが鈍っている。
やっぱりな、と吐き捨てたデューがすかさず割って入り、魔物に鉄拳を喰らわせた。
「おらよっ!」
「デュランダル……!?」
怯んだ魔物を豪快に蹴り飛ばすと、敵わないと見た魔物は途端に跳ねながら退散していく。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
フィノの治癒術でシーフォンの傷がみるみる癒えていく。
自分が苦戦した魔物を拳ひとつで追い払うなんて……と見上げたシーフォンは、そんなデューの違和感に気付く。
「デュランダル、剣はどうしたんだ?」
「ああ、ちょっと手強い化物に出会っちまってな」
英雄とまで呼ばれ、いつも余裕な顔ばかり見せる騎士団長がそこまで言うような相手とはどんなものなのだろうか……などと考えるシーフォンは「一旦戻るぞ」とパスティヤージュに連れ戻されることとなった。
――――
再びフィノの家に戻ると、そこはスパイスの香気に満たされていた。
慌てて出ていったのだろうか、冷めてしまったお茶のカップがそのまま置かれたテーブルに視線を落としたシーフォンは、胸がちくりと痛んだ。
「僕は、やっぱり弱いな」
デューのみならずフィノにまで迷惑をかけてしまい、ただ助けられるだけだったことがさすがに堪えたらしいシーフォンの横顔は珍しくしおらしい。
「わかっていた。僕の力はメリーゼには遠く及ばない。僕は彼女のように強くはなれない」
「シーフォン君……」
落ち込むシーフォンに声をかけようとしたフィノだったが、デューが特大の溜息と共に吐き出した「ばっかじゃねーの」という発言に凍りつくこととなった。
「なっ……バカだと?」
「メリーゼは確かに強ぇよ。お前はあいつのようにはなれない。けど、それは普通に当たり前だろ」
ぽかんと口を開けるシーフォンに、なおもデューの言葉は続く。
「オレは見ての通り力でぶん殴るしかできねーけど、フィノはそれを後ろからサポートしてくれた。魔術の火力でオレと一緒にぶん殴る仲間もいたし、敵を撹乱してそのための隙を作ってくれる仲間もいた」
「あ……」
そう語るデューが誰を思い浮かべているのか、かつて旅をした仲間であるフィノや精霊達には手に取るようにわかった。
「強さの答えはひとつじゃない。お前とメリーゼの目指す方向は、全く別のものだ」
「強さの、答え……」
その瞬間、シーフォンの中でひとつの壁が取り払われた……が、
「お前の剣は悪いとは言わないが確かにメリーゼみたいな鋭さはない。クローテみたいに魔術や治癒術に秀でている訳でもない」
次々と挙げられたたとえから導き出された答えがあまりにも騎士としての能力に欠けていて、思わず机に頭をぶつける。
「って、じゃあどうしたらいいんだ!?」
「剣術や魔術にとらわれるな。お前の特技は何だ? オレが見る限り、お前にはあいつらにはない強みがある」
「!」
ひりひりと赤くなった額を押さえ、デューの言葉に耳を傾けるシーフォンの顔つきが真剣なそれにかわった。
「ぐっ……どいてくれ! 僕はサラマンドルに行かなきゃならないんだ!」
長剣を片手に盾を構え、魔物と対峙する王子は長旅の疲労が蓄積しているのか動きが鈍っている。
やっぱりな、と吐き捨てたデューがすかさず割って入り、魔物に鉄拳を喰らわせた。
「おらよっ!」
「デュランダル……!?」
怯んだ魔物を豪快に蹴り飛ばすと、敵わないと見た魔物は途端に跳ねながら退散していく。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
フィノの治癒術でシーフォンの傷がみるみる癒えていく。
自分が苦戦した魔物を拳ひとつで追い払うなんて……と見上げたシーフォンは、そんなデューの違和感に気付く。
「デュランダル、剣はどうしたんだ?」
「ああ、ちょっと手強い化物に出会っちまってな」
英雄とまで呼ばれ、いつも余裕な顔ばかり見せる騎士団長がそこまで言うような相手とはどんなものなのだろうか……などと考えるシーフォンは「一旦戻るぞ」とパスティヤージュに連れ戻されることとなった。
――――
再びフィノの家に戻ると、そこはスパイスの香気に満たされていた。
慌てて出ていったのだろうか、冷めてしまったお茶のカップがそのまま置かれたテーブルに視線を落としたシーフォンは、胸がちくりと痛んだ。
「僕は、やっぱり弱いな」
デューのみならずフィノにまで迷惑をかけてしまい、ただ助けられるだけだったことがさすがに堪えたらしいシーフォンの横顔は珍しくしおらしい。
「わかっていた。僕の力はメリーゼには遠く及ばない。僕は彼女のように強くはなれない」
「シーフォン君……」
落ち込むシーフォンに声をかけようとしたフィノだったが、デューが特大の溜息と共に吐き出した「ばっかじゃねーの」という発言に凍りつくこととなった。
「なっ……バカだと?」
「メリーゼは確かに強ぇよ。お前はあいつのようにはなれない。けど、それは普通に当たり前だろ」
ぽかんと口を開けるシーフォンに、なおもデューの言葉は続く。
「オレは見ての通り力でぶん殴るしかできねーけど、フィノはそれを後ろからサポートしてくれた。魔術の火力でオレと一緒にぶん殴る仲間もいたし、敵を撹乱してそのための隙を作ってくれる仲間もいた」
「あ……」
そう語るデューが誰を思い浮かべているのか、かつて旅をした仲間であるフィノや精霊達には手に取るようにわかった。
「強さの答えはひとつじゃない。お前とメリーゼの目指す方向は、全く別のものだ」
「強さの、答え……」
その瞬間、シーフォンの中でひとつの壁が取り払われた……が、
「お前の剣は悪いとは言わないが確かにメリーゼみたいな鋭さはない。クローテみたいに魔術や治癒術に秀でている訳でもない」
次々と挙げられたたとえから導き出された答えがあまりにも騎士としての能力に欠けていて、思わず机に頭をぶつける。
「って、じゃあどうしたらいいんだ!?」
「剣術や魔術にとらわれるな。お前の特技は何だ? オレが見る限り、お前にはあいつらにはない強みがある」
「!」
ひりひりと赤くなった額を押さえ、デューの言葉に耳を傾けるシーフォンの顔つきが真剣なそれにかわった。