29~もうひとつの冒険~

 東大陸にある神子姫の里、パスティヤージュ。
 数日前に魔物の襲撃に脅かされたそこは、今は落ち着いて常時の穏やかさを取り戻していた。

 そんな里に、一人の……風通しの良い布を巻きつけたような東大陸の者のそれとは明らかに装いの違う、かっちりした服装の青年が訪れた。

「ぜぇ、はぁ……ここにメリーゼがいるのだな!」

 慣れない道をよほど歩いたのだろうか、装飾のやたら華美で豪奢な剣も今はよろよろの体を支える杖がわり。
 城の宝物庫に眠っていたそれの価値を知る者が見たら卒倒しそうな光景だが、青年は気にも留めていなかった。

 と、そこに。

「おう、お前シーフォンじゃねーか」
「えっ……?」

 青年……宝剣を持ち出して王都を飛び出した英雄王の息子シーフォン王子は、遠く離れた場所であるはずなのに聞き覚えのある声に驚き、振り返った。

「デュ、デュランダル、どうしてここに!?」
「そりゃこっちの台詞だっつの。しかもそれ、宝剣だろ?」

 フロスティブルーの髪を後ろに撫でつけ、前髪をツンと立てた壮年騎士……英雄であり王都騎士団長、そしてシーフォンにとっては父の親友でもあるデューことデュランダルはいるはずのない人物との遭遇に、わずかに面食らったようだった。

『保護者同伴で冒険の旅をしている。まあ気にするな』

 宝剣の柄を飾る石が仄かに光り、声を発する。

「精霊王……アンタもいたのか。ってことは……」
『ああ。基本的には何の問題もない』
「そうは言うけどよ……あーもう、めんどくせえことになってんな」

 姿が見えれば腕組みでもしていそうな堂々とした声に、デューは乱雑に頭を掻く。

『コイツも以前、時空干渉の影響で存在が消えかかったのだ。じっとしてなどいられんというから背中を押してやった。ついでにあちこち旅して鍛えてやりながらな』
「そう言いながら少し面白がってんだろ。こんな遠くまで来て、はじめてのおつかいじゃ済まねぇぞ」

 ここに辿り着くまでにどれだけの冒険を繰り広げたか知らないが、疲弊しきった王子を一瞥し、溜息を吐く。

「ぼ、僕を王都に連れ戻すつもりか?」

 身構えるシーフォンの頭にぽんと大きな手を置くと、

「そんな事はしねーよ。今はな。けど、少し休め……ひでえ面してるぞ、お前」

 呆気にとられる彼に、男前が台無しだぞ、とけらけら笑うのだった。
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