28~可能性の光~
ひと騒動終えたあと、サラマンドルの宿屋にて。
当然のように押し掛けてきたパンキッドに、カカオの仲間達の反応はそれぞれ違っていた。
「……あの、ついて行きたいって……」
おそるおそる窺うメリーゼは困惑気味だ。
決勝戦でカカオと渡り合い、腕輪を装備すれば総てに餓えし者の眷属も打ち倒せるパンキッドが戦力として不足かと言われれば、決してそんなことはないだろう。
しかし、この旅は少しばかり特殊なのだ。
(だ、大丈夫なのでしょうか……?)
今は手乗り毛玉の姿になってメリーゼの肩にいるランシッドに視線で尋ねれば、彼はブルブルと激しく首を左右に……というか、全身を震わせて否定した。
干渉を嫌い秩序を保とうとする精霊からしてみれば、パンキッドのことはあまり歓迎できないのだろう。
「えっと、パンキッドさん……わたし達の旅は危険で、普通では有り得ないことがたくさん起こります。命を落とすかもしれないんです。通りすがりに巻き込む訳には……」
「ってオレも言ったんだけどな。全然聞かねーんだよ」
「だいたい旅なんてみんなそんなもんだろ? 大丈夫、死んだらそれはアタシが弱かっただけの話さ」
弄られた過去に行くだの別の時代から来た人がいるだのと言えるはずがなく、微妙にぼかしたカカオやメリーゼの話はパンキッドを思い止まらせるには至らない。
自分の力不足で死ぬのは構わない、という彼女の目は本気で、決して生半可な気持ちで言っている訳ではなさそうだが……巻き込んだ側が気にしないはずがなかった。
「……どうしてそうまでしてついて来たがるんだ? 闘技場と違ってゲームじゃないから命の保証はないし活躍に応じた金が入る訳じゃない。それに戦うことが目的じゃないんだぞ」
身をもって命の危険を体験したクローテが、真っ直ぐに投げ掛ける。
「わかってるよ、そんなこと……でも、抑えられないんだ」
返ってきた言葉は、やはり真っ直ぐなもので。
「闘技場での……あの化物とのアンタ達の戦いを見て思ったんだ、不思議な連中だって。あんな有り得ないことに、まるで最初からそうなることを知っていたみたいに動いて、倒し方も知っていて、そのための力も持っていて……はっきり言って、普通じゃない」
偶然やって来たなんて都合の良い話はそうそうない、という彼女の指摘は鋭いものだった。
「ほ、ほら、オジサンそれなりに歳をとってるから! あの化物は二十年前に暴れたやつだからさ! いやー昔よく戦ったんだよねー」
「その魔物って大元が倒されて消えていったんだろ? 母さんが言ってたよ」
嘘が下手なブオルのごまかしもあっという間に突かれ、あえなく終了。
と、
「いいんじゃないの、別にさ」
流れを変えたのは、モカの発言だった。
「よく考えたらボクだってただの好奇心で首を突っ込んだのがはじまりで、今まだこうやって一緒にいるんだよ。そりゃ、最初と今じゃ心構えが違うけどさ」
みんなだってそんなに変わらないでしょ、とモカは続ける。
英雄の娘だといってもまだほんの子供である彼女や、見習い職人でしかないカカオ、メリーゼやクローテだって世界の命運を背負うには足りない駆け出しの騎士だった。
「い、言われてみりゃそうだな」
「それに、なんだか妙に気になるのよね……あたしの視た光景、ただ闘技場が襲われることだけを指していたようには思えないの」
抽象的で断片的だが未来予知の能力をもつ神子姫アングレーズは、パンキッドを一目見た時から何かを感じ取っていた。
闘技場に現れる不穏な影と、それを払う光……その光は自分達ともとれそうだが、アングレーズにはどうもそういう風には思えなかったらしい。
そう主張する彼女に「それがしもでござる」と頷いたのはガレ。
「それがし達の知るカカオどの達の仲間に、パンキッドどのの姿はなかった……そして、アングレーズどのの予知でサラマンドルに導かれ、パンキッドどのと出会ったのは果たして偶然でござろうか?」
『アングレーズ達が現れたことによる変化、歪められた未来には存在しなかった仲間、か……可能性になり得る、ってことなのか?』
むむ、とランシッドが唸る。
「よくわかんないけど、一緒に行っていいってことだね?」
手応えありと見たパンキッドがメリーゼの肩のランシッドに詰め寄るが、
「毛玉がしゃべったー!?」
『し、しまったぁー!』
一拍置いて、その異様さに気付いた。
このあと混乱したパンキッドからの質問ぜめがさらに激しくなったのは、言うまでもない。
当然のように押し掛けてきたパンキッドに、カカオの仲間達の反応はそれぞれ違っていた。
「……あの、ついて行きたいって……」
おそるおそる窺うメリーゼは困惑気味だ。
決勝戦でカカオと渡り合い、腕輪を装備すれば総てに餓えし者の眷属も打ち倒せるパンキッドが戦力として不足かと言われれば、決してそんなことはないだろう。
しかし、この旅は少しばかり特殊なのだ。
(だ、大丈夫なのでしょうか……?)
今は手乗り毛玉の姿になってメリーゼの肩にいるランシッドに視線で尋ねれば、彼はブルブルと激しく首を左右に……というか、全身を震わせて否定した。
干渉を嫌い秩序を保とうとする精霊からしてみれば、パンキッドのことはあまり歓迎できないのだろう。
「えっと、パンキッドさん……わたし達の旅は危険で、普通では有り得ないことがたくさん起こります。命を落とすかもしれないんです。通りすがりに巻き込む訳には……」
「ってオレも言ったんだけどな。全然聞かねーんだよ」
「だいたい旅なんてみんなそんなもんだろ? 大丈夫、死んだらそれはアタシが弱かっただけの話さ」
弄られた過去に行くだの別の時代から来た人がいるだのと言えるはずがなく、微妙にぼかしたカカオやメリーゼの話はパンキッドを思い止まらせるには至らない。
自分の力不足で死ぬのは構わない、という彼女の目は本気で、決して生半可な気持ちで言っている訳ではなさそうだが……巻き込んだ側が気にしないはずがなかった。
「……どうしてそうまでしてついて来たがるんだ? 闘技場と違ってゲームじゃないから命の保証はないし活躍に応じた金が入る訳じゃない。それに戦うことが目的じゃないんだぞ」
身をもって命の危険を体験したクローテが、真っ直ぐに投げ掛ける。
「わかってるよ、そんなこと……でも、抑えられないんだ」
返ってきた言葉は、やはり真っ直ぐなもので。
「闘技場での……あの化物とのアンタ達の戦いを見て思ったんだ、不思議な連中だって。あんな有り得ないことに、まるで最初からそうなることを知っていたみたいに動いて、倒し方も知っていて、そのための力も持っていて……はっきり言って、普通じゃない」
偶然やって来たなんて都合の良い話はそうそうない、という彼女の指摘は鋭いものだった。
「ほ、ほら、オジサンそれなりに歳をとってるから! あの化物は二十年前に暴れたやつだからさ! いやー昔よく戦ったんだよねー」
「その魔物って大元が倒されて消えていったんだろ? 母さんが言ってたよ」
嘘が下手なブオルのごまかしもあっという間に突かれ、あえなく終了。
と、
「いいんじゃないの、別にさ」
流れを変えたのは、モカの発言だった。
「よく考えたらボクだってただの好奇心で首を突っ込んだのがはじまりで、今まだこうやって一緒にいるんだよ。そりゃ、最初と今じゃ心構えが違うけどさ」
みんなだってそんなに変わらないでしょ、とモカは続ける。
英雄の娘だといってもまだほんの子供である彼女や、見習い職人でしかないカカオ、メリーゼやクローテだって世界の命運を背負うには足りない駆け出しの騎士だった。
「い、言われてみりゃそうだな」
「それに、なんだか妙に気になるのよね……あたしの視た光景、ただ闘技場が襲われることだけを指していたようには思えないの」
抽象的で断片的だが未来予知の能力をもつ神子姫アングレーズは、パンキッドを一目見た時から何かを感じ取っていた。
闘技場に現れる不穏な影と、それを払う光……その光は自分達ともとれそうだが、アングレーズにはどうもそういう風には思えなかったらしい。
そう主張する彼女に「それがしもでござる」と頷いたのはガレ。
「それがし達の知るカカオどの達の仲間に、パンキッドどのの姿はなかった……そして、アングレーズどのの予知でサラマンドルに導かれ、パンキッドどのと出会ったのは果たして偶然でござろうか?」
『アングレーズ達が現れたことによる変化、歪められた未来には存在しなかった仲間、か……可能性になり得る、ってことなのか?』
むむ、とランシッドが唸る。
「よくわかんないけど、一緒に行っていいってことだね?」
手応えありと見たパンキッドがメリーゼの肩のランシッドに詰め寄るが、
「毛玉がしゃべったー!?」
『し、しまったぁー!』
一拍置いて、その異様さに気付いた。
このあと混乱したパンキッドからの質問ぜめがさらに激しくなったのは、言うまでもない。