28~可能性の光~
東大陸のサラマンドルが誇る闘技場で、武闘大会の最中に乱入した招かれざるモノ達。
二十年前にも人々を苦しめた“総てに餓えし者”の眷属はカカオ達と、腕輪を渡されたパンキッドによって退治された。
どうやら魔物が現れたのは闘技場内だけで、外……サラマンドルの町全体では大きな騒ぎにならなかったのが不幸中の幸いだ。
「さてと、もうここには用はないな」
「えっ? 中断しちまった決勝戦の続きは?」
一難去って歓声降り注ぐ舞台から降り、さっさと帰ろうとするカカオに、パンキッドが驚いた顔をする。
彼女にとってカカオとの戦いがよほど心踊るものだったのだろう、その表情は寂しげだ。
「続きなんかやれる雰囲気かよ。んなもん、お前が優勝でいいだろ」
「だってお前は腕輪を……」
「普通の攻撃じゃ倒せなかった魔物を、腕輪を装備したお前が倒してみんなを救った。これでみんな、そいつの価値はわかったと思う」
カカオの目的はあくまで、過去の経緯も忘れて“闘士の腕輪”などと呼ばれ優勝賞品にされていた祖父の腕輪を価値のわかる人物に託す……手に入れること自体にこだわりはなかった。
「そりゃ、よくわかったけど……」
「その腕輪はお前が持てばいい。みんな納得するだろ、サラマンドルの英雄さんならな」
過去も未来も絡んだ時空干渉を阻止する旅の途中、目的を果たした以上無闇やたらと目立つ行為は避けたい。
アングレーズが予知した危機を回避できたのなら、早く元の旅路へと戻るべきだ。
「……なら、ついて行く」
「へっ?」
てっきり戦いたがってごねると思っていたパンキッドの、斜め上の言葉にカカオの口から出た声は裏返る。
「最近闘技場のレベルが低くて飽きてきたところだったんだよ。お前について行った方が、強いヤツと戦えそうだ」
「お前っ……遊びじゃねーぞ! 死ぬかもしれないんだ!」
「やっぱそういうことかい。道理でその強さ、面構え……面白いじゃないか」
カカオの忠告もお構いなしに、つかつかと歩み寄るパンキッド。
そんな彼らの会話など聞き取れるはずのない観客達は、何を話しているのだろうと見守っていたが……
むぎゅっ。
「ちょっ、え!?」
「もう決めたんだ。無理矢理にでもついて行くよ!」
カカオの腕によく育った胸を押し付ける形でしがみつき、笑顔でそう宣言したパンキッドに、観客達は驚き、総立ちになった。
それはもちろん、席に戻ったメリーゼ達も例外ではなく……
「えっ……!?」
「あらあら、積極的な子ねぇ」
メリーゼが目を丸くして、会話が聴こえていたのだろうクローテとガレは顔を見合わせる。
アングレーズは口にこそ出さなかったが「面白くなってきたわ」と態度が語っていた。
そんな仲間達の反応までは見えないが、客席のどよめきや、時折耳に届く「俺達のパンキッドちゃんが……」といった声に、さすがのカカオもこれはまずいとパンキッドを押し除けて棒立ちの司会者に詰め寄る。
「い、いつまでみんなここにいるんだよ!? ほら、もう大会は終わりだ! 撤収!」
「はっ、はい、それもそうですね!」
カカオとパンキッドのやりとりを呆然と見ていた司会者は慌てて拡声装置を口元に持っていき、
「えー……今回の武闘大会はこれにて終了となります! 思わぬアクシデントで決勝戦は中止となりましたが、我々を救うため熱い戦いを見せてくれた闘士達に、最後にもう一度盛大な拍手と声援を!」
そう促して閉じさせる。
あたたかい拍手と、たまに刺さるヤジを背中に受けながら、カカオは逃げるようにこの場を走り去った。
二十年前にも人々を苦しめた“総てに餓えし者”の眷属はカカオ達と、腕輪を渡されたパンキッドによって退治された。
どうやら魔物が現れたのは闘技場内だけで、外……サラマンドルの町全体では大きな騒ぎにならなかったのが不幸中の幸いだ。
「さてと、もうここには用はないな」
「えっ? 中断しちまった決勝戦の続きは?」
一難去って歓声降り注ぐ舞台から降り、さっさと帰ろうとするカカオに、パンキッドが驚いた顔をする。
彼女にとってカカオとの戦いがよほど心踊るものだったのだろう、その表情は寂しげだ。
「続きなんかやれる雰囲気かよ。んなもん、お前が優勝でいいだろ」
「だってお前は腕輪を……」
「普通の攻撃じゃ倒せなかった魔物を、腕輪を装備したお前が倒してみんなを救った。これでみんな、そいつの価値はわかったと思う」
カカオの目的はあくまで、過去の経緯も忘れて“闘士の腕輪”などと呼ばれ優勝賞品にされていた祖父の腕輪を価値のわかる人物に託す……手に入れること自体にこだわりはなかった。
「そりゃ、よくわかったけど……」
「その腕輪はお前が持てばいい。みんな納得するだろ、サラマンドルの英雄さんならな」
過去も未来も絡んだ時空干渉を阻止する旅の途中、目的を果たした以上無闇やたらと目立つ行為は避けたい。
アングレーズが予知した危機を回避できたのなら、早く元の旅路へと戻るべきだ。
「……なら、ついて行く」
「へっ?」
てっきり戦いたがってごねると思っていたパンキッドの、斜め上の言葉にカカオの口から出た声は裏返る。
「最近闘技場のレベルが低くて飽きてきたところだったんだよ。お前について行った方が、強いヤツと戦えそうだ」
「お前っ……遊びじゃねーぞ! 死ぬかもしれないんだ!」
「やっぱそういうことかい。道理でその強さ、面構え……面白いじゃないか」
カカオの忠告もお構いなしに、つかつかと歩み寄るパンキッド。
そんな彼らの会話など聞き取れるはずのない観客達は、何を話しているのだろうと見守っていたが……
むぎゅっ。
「ちょっ、え!?」
「もう決めたんだ。無理矢理にでもついて行くよ!」
カカオの腕によく育った胸を押し付ける形でしがみつき、笑顔でそう宣言したパンキッドに、観客達は驚き、総立ちになった。
それはもちろん、席に戻ったメリーゼ達も例外ではなく……
「えっ……!?」
「あらあら、積極的な子ねぇ」
メリーゼが目を丸くして、会話が聴こえていたのだろうクローテとガレは顔を見合わせる。
アングレーズは口にこそ出さなかったが「面白くなってきたわ」と態度が語っていた。
そんな仲間達の反応までは見えないが、客席のどよめきや、時折耳に届く「俺達のパンキッドちゃんが……」といった声に、さすがのカカオもこれはまずいとパンキッドを押し除けて棒立ちの司会者に詰め寄る。
「い、いつまでみんなここにいるんだよ!? ほら、もう大会は終わりだ! 撤収!」
「はっ、はい、それもそうですね!」
カカオとパンキッドのやりとりを呆然と見ていた司会者は慌てて拡声装置を口元に持っていき、
「えー……今回の武闘大会はこれにて終了となります! 思わぬアクシデントで決勝戦は中止となりましたが、我々を救うため熱い戦いを見せてくれた闘士達に、最後にもう一度盛大な拍手と声援を!」
そう促して閉じさせる。
あたたかい拍手と、たまに刺さるヤジを背中に受けながら、カカオは逃げるようにこの場を走り去った。