28~可能性の光~

 中央大陸にある職人の町、フォンダンシティ。
 大地を司る大精霊の住み処であり、南に少し行けば蛍煌石という特殊な鉱石が採掘される洞窟があることから、別名“煌めきの町”とも呼ばれているそこでは、それほど立派でもない工房に世界的な名工とうたわれる職人が住んでいる。

 彼の作った腕輪が二十年前に多くの人々を間接的に救った、という話は当事者以外にはそれほど知られていないが……本人は全く気にしていない。

 そんなことよりも、現在の彼を悩ませるものは……

「……あー……」

 精霊通話機に伸ばしかけた手を引っ込め、浮かない顔で溜め息を吐くガトー。
 手軽に気軽に遠方の友人と連絡ができる道具、というのは便利だが、ついつい頼ってしまいそうになるのは困ったものだと行き場をなくした手で頭を掻く。

 少し前までは、たまに来る連絡を受けるだけのものだったのに。

(オグマ達の時にこいつがあったら、やっぱ同じことになっちまってたのかな……それとも、歳をとって寂しくなっちまったか)

 夜という静かで落ち着いた時間は、どうも余計なことばかり考えてしまう……未練がましく通話機を見つめながら、ガトーは思考を巡らせた。
 彼が息子のように接していた男、オグマは二十年前に仲間と共に旅に出て、世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれてしまった。
 そして、なんの因果か今は孫のカカオが同様の状況になっている。

(ちくしょう、俺はまた待ってるだけしか出来ねえのかよ……)

 いつだって過酷な運命を背負わされた後ろ姿を見送るばかりな自分に歯痒さが募る。
 今すぐにでも無事を確かめたいが、もう何度通話機を使ったか……それに、友人である先王の話では、最近カカオ達は別の大陸に旅立ったという。

(いや待てよ、王都に行く時、あいつら変な地下通路を使ってたよな……たしか、くずりゅーのみち、とかいう)

 フォンダンシティの小さな工房に閉じ籠っていては情報が入りにくい。
 せめて王都まで行くことが出来れば……そこまで考えて、ガトーは自ら首を左右に振って否定した。

(いやいやいや、途中で魔物に襲われたらお終ぇだ。せめて護衛でも雇わねえと……)

 金ならどうせ使わないからそれなりにあるし、そこそこ盛況しているこの町の酒場にでも行けば冒険者や傭兵を雇えるかもしれない。
 同時に、自分なんかが行って何になるんだ、という考えもよぎるが……堪え性のないガトーが何の便りもなくじっと待つのもそろそろ限界を迎えていた。

 と、そんな折に工房のドアが軽く数回叩かれる。

「誰だ、こんな時分に」

 そう問い掛けるが、とっくに店仕舞いの札を出している時間にお構いなしに訪れる客なんていうものはほぼ決まっていた。

 入れ、と促されて開いたドアの向こうから覗かせた顔を見て、やっぱりなとガトーは内心で呟く。

 そして……

「ちょうどいい所に来やがったな。ちいと相談がある」

 訪問するなりそう言われた客人は、話が読めずに首を傾げるのだった。
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