27~闘士舞うサラマンドル~

 仲間達が各所に散って“総てに餓えし者”の眷属と戦っているのが視界の端に見える中、闘技場のステージではカカオとパンキッドが背中合わせで取り囲む魔物と対峙していた。

「この腕輪、力がどんどん湧いてくる……」
「精霊を身近に感じるだろ。その感覚に身を任せて……」
「こうか!」

 パンキッドがトンファーを突き出すと、先端に飾られた玉から発射された衝撃波が魔物に直撃し、数匹まとめて消し去る。
 初戦で見せた技と同じものなのだろうか、威力はそれとは段違いになっていた。
 思わずよろめいたパンキッドの背中が、カカオの肩に当たる。

「あ、ありゃ?」
「すげぇ威力……力がコントロールしきれねーのか」
「だったら直接ぶん殴る!」

 増幅された力がまだ己に馴染んでいないパンキッドをフォローするようにカカオも動く。

「まだ慣れてないんだろ。サポートするからあんま無茶すんなよ」
「ならちゃんとついて来いよ、カカオ!」

 などと言いながら、一体また一体と着実に魔物の数を減らしていく。

「はは、誰かと息をあわせて戦うなんて初めてだよ」
「あってねーよ!」

 パンキッドの動きは同じスピードタイプでも騎士団の型があるメリーゼとは異なるハチャメチャさで、他人との連携などまるで考えていないだろうものだった。
 そこにカカオがあわせるという、仲間達が見たらちょっと珍しく思うだろう状況だが……

「なんとかしてやるっきゃねーな……」

 これも勉強だ、とカカオが溜め息を吐く。
 それでもパンキッドも天性の勘か、少しずつカカオにあわせた動きをし始めた頃、魔物の姿は闘技場から完全に消えた。

「あー、とんでもねえ決勝戦だったな……」
「アタシは楽しかったけどな!」

 がっくりと肩を落とすカカオと、けらけら笑うパンキッド。
 しかし直後、彼女の視線はカカオの手首を飾る腕輪に。

「……お前も腕輪持ってたんだな。最初からそれつけてればもっと楽に勝てたんじゃないのか?」

 まさかハンデのつもりじゃ……と険しい表情になるパンキッドに、

「この腕輪はあくまで借りてるだけだからな。今回は……素の実力で戦ってみたかった。この先に待ち受けるものを考えたら、腕輪に頼ってばっかじゃいられないだろうからな」

 生死や世界の命運が懸かっていない、試合という形式は自分の力量を知る良い機会にもなった、とカカオは語る。

「お前の、やらなきゃいけないこと……か」

 パンキッドが何やら考え込むが、それは長くは続かなかった。

「えー、突然のトラブルに見舞われましたが……皆様ご安心ください! 魔物は退治され、闘技場に平穏が戻りました!」

 割り込んできた司会者の、会場中に響くアナウンスは場の人々を安心させるため。

「魔物を退治してくれた闘士達……我らがアイドルにして英雄パンキッド・グラノーラ、そしてカカオ・ランジェに! 惜しみ無い感謝の拍手をー!」
「英雄……アタシが? まあアイドルよりはいいけど、なんか照れ臭いね」

 割れるような拍手喝采を合図に、闘技場は元の空気を取り戻すのだった。
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