27~闘士舞うサラマンドル~
熱気渦巻く東大陸の闘技場、観客達の視線を一ヶ所に集める舞台の上には、筋肉ダルマという形容がしっくりくるような大柄な男と対峙する少女が。
褐色肌にアンバーローズの長い髪、リボン結びにした黒いハチマキが特徴の彼女は闘技場のアイドルと紹介され、暑苦しい声援を背負わされたパンキッドだ。
「へへ、何がアイドルだ。怪我しないうちにおウチに帰りな、お嬢ちゃん」
来る場所を間違えているだろうと言わんばかりに男が一回りどころじゃない体格差のパンキッドを見下ろした。
その視線は絡みつくようで、忠告的な台詞とは裏腹にどこか下卑た加虐趣味のようなものを覗かせる。
「だからアイドルっつーのは周りが勝手に呼んでるだけだっつの。それより……」
すう、と息を吸い込むと、パンキッドは口の端を上げ、金眼を細める。
「その台詞、そっくりそのまま返すよ……怪我すんのはそっちの方だ」
獰猛な獣を思わせる表情を見せた彼女の姿は試合開始を知らせる鐘の音が鳴るなり掻き消え、
「なっ!?」
「遅い! お話にもなんない……」
意表を突かれた男が鈍い所作で振り向いた時には、
「よッ!」
彼女は両手に構えた武器……トンファーと呼ばれる、持ち手が横に飛び出た棒状のそれをくるりと回して持ち替えた。
そしてトンファーを突き出すと同時に、棒の先端部を飾る丸い石から放たれた衝撃波が無防備な男の背中に直撃する。
「ぐおぉぉぉっ!?」
見た目に反した豪快な一撃に吹っ飛ばされた男が壁に激突し、目を回して戦闘不能と判断されるまで、あっという間の出来事だった。
「……しょ、勝負あり! 勝者、パンキッド・グラノーラ!」
しん、と静まり返った場内の沈黙を破ったのは審判の判定。
「きっ……決まったァー! パンキッド、今回も鮮やかに勝利をもぎ取りましたー!」
拡声装置を通したやや裏返り気味の司会者の声が、歓声の切っ掛けとなる。
パンキッドは当然だろといった風な冷めた目で、倒れた男を一瞥した。
「だから忠告しといたんだよ……って、もう聴こえてないか」
最後にぺろりと舌を出して見せたのは、馬鹿にされたことへのお返しか。
歓喜に沸くものからブーイングまでさまざまな声が降り注ぐステージから早々に引っ込んで控え室を目指していたパンキッドが、出番待ちで中から見学していたのだろうカカオと通路ですれ違う。
「お手並み見せてもらうよ、職人さん」
それだけ言うと去っていくパンキッドに、振り返ることはしない。
「なんでこんなに意識されてんだ……まあいいけど」
優勝賞品にされた祖父の腕輪のためにも、無理言って出場を譲って貰ったメリーゼのためにも、自分は自分のやるべき事をやるだけだ。
わしゃわしゃと頭を掻いたカカオは、鮮やかな翠の眼を光に満ちた舞台へと向けた。
褐色肌にアンバーローズの長い髪、リボン結びにした黒いハチマキが特徴の彼女は闘技場のアイドルと紹介され、暑苦しい声援を背負わされたパンキッドだ。
「へへ、何がアイドルだ。怪我しないうちにおウチに帰りな、お嬢ちゃん」
来る場所を間違えているだろうと言わんばかりに男が一回りどころじゃない体格差のパンキッドを見下ろした。
その視線は絡みつくようで、忠告的な台詞とは裏腹にどこか下卑た加虐趣味のようなものを覗かせる。
「だからアイドルっつーのは周りが勝手に呼んでるだけだっつの。それより……」
すう、と息を吸い込むと、パンキッドは口の端を上げ、金眼を細める。
「その台詞、そっくりそのまま返すよ……怪我すんのはそっちの方だ」
獰猛な獣を思わせる表情を見せた彼女の姿は試合開始を知らせる鐘の音が鳴るなり掻き消え、
「なっ!?」
「遅い! お話にもなんない……」
意表を突かれた男が鈍い所作で振り向いた時には、
「よッ!」
彼女は両手に構えた武器……トンファーと呼ばれる、持ち手が横に飛び出た棒状のそれをくるりと回して持ち替えた。
そしてトンファーを突き出すと同時に、棒の先端部を飾る丸い石から放たれた衝撃波が無防備な男の背中に直撃する。
「ぐおぉぉぉっ!?」
見た目に反した豪快な一撃に吹っ飛ばされた男が壁に激突し、目を回して戦闘不能と判断されるまで、あっという間の出来事だった。
「……しょ、勝負あり! 勝者、パンキッド・グラノーラ!」
しん、と静まり返った場内の沈黙を破ったのは審判の判定。
「きっ……決まったァー! パンキッド、今回も鮮やかに勝利をもぎ取りましたー!」
拡声装置を通したやや裏返り気味の司会者の声が、歓声の切っ掛けとなる。
パンキッドは当然だろといった風な冷めた目で、倒れた男を一瞥した。
「だから忠告しといたんだよ……って、もう聴こえてないか」
最後にぺろりと舌を出して見せたのは、馬鹿にされたことへのお返しか。
歓喜に沸くものからブーイングまでさまざまな声が降り注ぐステージから早々に引っ込んで控え室を目指していたパンキッドが、出番待ちで中から見学していたのだろうカカオと通路ですれ違う。
「お手並み見せてもらうよ、職人さん」
それだけ言うと去っていくパンキッドに、振り返ることはしない。
「なんでこんなに意識されてんだ……まあいいけど」
優勝賞品にされた祖父の腕輪のためにも、無理言って出場を譲って貰ったメリーゼのためにも、自分は自分のやるべき事をやるだけだ。
わしゃわしゃと頭を掻いたカカオは、鮮やかな翠の眼を光に満ちた舞台へと向けた。