26~願いの腕輪~

 闘技場の大会はトーナメント方式で、参加者の強さにばらつきがあるため試合の見応えもそれごとに違った。
 組み合わせはくじ引きで決まるため、いきなり強い相手と当たってしまって即終了……などという試合もあったり。

「騎士団でも武術大会はあるけど、やっぱ雰囲気違うよなあ」
「騎士団の大会は日頃の鍛練の成果や技術を見せる場、こちらとは目的が違いますしね」

 しばらく観客席にいて少しは空気に慣れてきたのか、ブオルの言葉に頷くクローテ。

「はい。参加者の皆さんも出身や戦い方がバラバラで、いろいろな戦いが見られて参考になります」

 売店で買ってきた飲み物にもほとんど口をつけずにそう語るメリーゼの目は、試合から何かしら学ぼうと釘付けだ。

「さて続いての試合は……おおっ!」

 最初に組み合わせが決まった時に貼り出されたトーナメント表を一瞥した司会者の声が期待に弾む。
 つられてメリーゼ達もその表を見ると、カカオの試合はまだ先のようだった。

「次の試合に何かあるのでござるか?」

 ざわめく会場内、ガレが疑問を口にしたその時。

「皆さんお待ちかね! 鮮烈なデビューを果たしてから負け知らずの紅き迅雷! 期待の新星にして闘技場のアイドル、パンキッド・グラノーラ!」

 司会者が声を張り上げ、観客達の歓声もそれに続く。
 ぎにゃあ、と悲鳴をあげてガレが思わず耳を塞いだ。

「そのアイドルっての、アタシのガラじゃないんだけど……いつの間にか通り名みたいなのもついてるし」

 当のパンキッドはというと、うんざりした様子で肩を竦めて一息吐いた。

 そんな彼女を観客席から見下ろすメリーゼ達も、これまで舞台に上がった戦士とは明らかに雰囲気が違う少女の登場に少なからず驚く。

『メリーゼ、同じぐらいの年頃の女の子が出てるよ』
「本当ですね……どんな子なんでしょう? 手合わせしてみたかったです」
『お話してみたいとかじゃないんだ……』

 同じ年頃の子に興味をもつにしてもそこはそうじゃないだろうと頭を抱える父、ランシッド。

 しかしそれとは別に、パンキッドを熱い視線で見つめる人物がひとり。

「光……」

 その人物、アングレーズがぽつりとつぶやいた。
 パンキッドを見た瞬間、今度は意識するでもなく自然に思い返された断片的な予知の光景。

 少なくとも、やはりこの闘技場で何かが起きる……確証はないが、そんな予感がする。

「どうしたの、アン?」
「もしかしたらこの大会、思ったより荒れるかもしれない……なんて?」
「え、なにそれ」

 なにやら不穏なことを笑顔で口走る友人を「怖いんですけど」とジト目で見上げるモカであった。
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