26~願いの腕輪~
武闘大会に出場する、選手用の控え室にて。
「くっそ、何が闘士の腕輪だ……あれはみんなを守りたい、じいちゃんの願いだ……!」
ここまで届いた司会者の声に、カカオは壁際にもたれかかり、ひとり歯を食いしばって拳に力をこめた。
「気合い入ってるな、お前」
「あ?」
うつむいていた彼が突如かけられた声に顔をあげると、そこには少女の姿が。
年頃はカカオと同じか少し下か……アンバーローズの長い髪を後ろでみっつ、三本の尻尾のように括った髪型と、リボン結びにしたハチマキが特徴的だ。
褐色の肌は健康的な印象を与え、短いジャケットにショートパンツや左右非対称のアームカバーやレッグカバーで発育の良い体を適度に露出した活発そうな服装がよく似合っている。
そして何より印象に残るのは、ぎらついた獣のような野性的な金色の眼。
「……なんだよ、いきなり。っていうか誰だ?」
「お前、闘技場は初めてだな? 闘技場の常連なら何度かアタシの顔を見て知ってるんだが」
アタシはそいつらの顔なんていちいち覚えないけどな、と少女は豪快に笑い飛ばす。
「アタシはパンキッド。ここで金を稼いで生活してる」
「そうか、オレはカカオだ。で、今回の賞品を目当てに来たって訳か。手に入れて売り飛ばすのか? それとも腕輪の力で強くなりたいのか?」
総てに餓えし者の眷属が各地の町を襲ったのは二十年前。
目の前の少女は生まれてもいないだろうが、知らないとはいえ祖父の想いがこめられた大切なものをそんな風に扱って欲しくはなかった。
我知らず苛立ちが態度に出ていたカカオを、パンキッドがじろりと睨みつける。
「勝手に決めつけて勝手にムカついてんじゃないよ。別に賞品には興味はない」
「は?」
「アタシはただ、強い奴とやりたいだけだ。例えば……お前みたいな」
闘技場で稼いでいるのはそれが性に合ってるからと付け加え、パンキッドはカカオに迫る。
「お前、パッと見は弱っちそうだが何か隠してるだろ」
「何かって……オレはただの職人見習い……」
「ウソつくな! 職人見習いがなんで闘技場にいるんだよ!?」
もっともすぎる指摘を受けたカカオは、言われてみれば……と言葉を詰まらせた。
「……オレは、その……あの腕輪を、価値のわからない奴に渡したくなくて……」
「ふーん?」
つっかえ気味のカカオの返答に「まあいいや」とパンキッドが踵を返すと、長い髪があわせて靡く。
「とりあえずお互い勝ち続けてりゃどっかでぶつかるだろ。楽しみにしてるよ、カカオ」
軽く挙げた手をひらひらと振りながら、彼女は去っていった。
「なんだ、あいつ……?」
にやりと自信に満ちた笑みが、妙に印象に残る少女だった。
改めて辺りを見回すと、いかにも力や強さが自慢の筋肉を纏った厳つい男達ばかりの控え室ではパンキッドもカカオ自身も浮いた存在同士で、彼女が自分に興味をもつのも納得がいく。
(パンキッド、っつったな。そのうち戦うことになるのか……)
猛者が集う闘技場であの堂々たる立ち振舞い……恐らくは、只者ではないのだろう。
きっと彼女とはこの大会中に舞台上で再会するであろうことも、はっきりと予感したカカオであった。
「くっそ、何が闘士の腕輪だ……あれはみんなを守りたい、じいちゃんの願いだ……!」
ここまで届いた司会者の声に、カカオは壁際にもたれかかり、ひとり歯を食いしばって拳に力をこめた。
「気合い入ってるな、お前」
「あ?」
うつむいていた彼が突如かけられた声に顔をあげると、そこには少女の姿が。
年頃はカカオと同じか少し下か……アンバーローズの長い髪を後ろでみっつ、三本の尻尾のように括った髪型と、リボン結びにしたハチマキが特徴的だ。
褐色の肌は健康的な印象を与え、短いジャケットにショートパンツや左右非対称のアームカバーやレッグカバーで発育の良い体を適度に露出した活発そうな服装がよく似合っている。
そして何より印象に残るのは、ぎらついた獣のような野性的な金色の眼。
「……なんだよ、いきなり。っていうか誰だ?」
「お前、闘技場は初めてだな? 闘技場の常連なら何度かアタシの顔を見て知ってるんだが」
アタシはそいつらの顔なんていちいち覚えないけどな、と少女は豪快に笑い飛ばす。
「アタシはパンキッド。ここで金を稼いで生活してる」
「そうか、オレはカカオだ。で、今回の賞品を目当てに来たって訳か。手に入れて売り飛ばすのか? それとも腕輪の力で強くなりたいのか?」
総てに餓えし者の眷属が各地の町を襲ったのは二十年前。
目の前の少女は生まれてもいないだろうが、知らないとはいえ祖父の想いがこめられた大切なものをそんな風に扱って欲しくはなかった。
我知らず苛立ちが態度に出ていたカカオを、パンキッドがじろりと睨みつける。
「勝手に決めつけて勝手にムカついてんじゃないよ。別に賞品には興味はない」
「は?」
「アタシはただ、強い奴とやりたいだけだ。例えば……お前みたいな」
闘技場で稼いでいるのはそれが性に合ってるからと付け加え、パンキッドはカカオに迫る。
「お前、パッと見は弱っちそうだが何か隠してるだろ」
「何かって……オレはただの職人見習い……」
「ウソつくな! 職人見習いがなんで闘技場にいるんだよ!?」
もっともすぎる指摘を受けたカカオは、言われてみれば……と言葉を詰まらせた。
「……オレは、その……あの腕輪を、価値のわからない奴に渡したくなくて……」
「ふーん?」
つっかえ気味のカカオの返答に「まあいいや」とパンキッドが踵を返すと、長い髪があわせて靡く。
「とりあえずお互い勝ち続けてりゃどっかでぶつかるだろ。楽しみにしてるよ、カカオ」
軽く挙げた手をひらひらと振りながら、彼女は去っていった。
「なんだ、あいつ……?」
にやりと自信に満ちた笑みが、妙に印象に残る少女だった。
改めて辺りを見回すと、いかにも力や強さが自慢の筋肉を纏った厳つい男達ばかりの控え室ではパンキッドもカカオ自身も浮いた存在同士で、彼女が自分に興味をもつのも納得がいく。
(パンキッド、っつったな。そのうち戦うことになるのか……)
猛者が集う闘技場であの堂々たる立ち振舞い……恐らくは、只者ではないのだろう。
きっと彼女とはこの大会中に舞台上で再会するであろうことも、はっきりと予感したカカオであった。