2~白き王都の英雄王~
英雄王が若い頃の自分だと絵の中の美女を指さしたことで、カカオはここに漂う違和感の正体に確信した……というか、したくなくて避けていたのだが。
「ここにある絵ってもしかしてみんな……」
「先代の王で僕の祖父が思い付きで始めて以来、すっかり伝統になってね。毎年恒例の騎士団女装コンテスト」
そして、この一言で騎士団所属のクローテが必死にカカオ達を制止しようとしていた理由も察した。
クローテはプライドが高く、そして美人とも言えるほどの女顔であることを気にしている。
女性と間違えて言い寄ってきた男に長い睫毛を伏せた冷たい眼差しを向け、問答無用で蹴りをお見舞いしたくらいにはその手の話は禁句なのだが……よりにもよって王が相手では、話題を止めることは叶わなかった。
(クローテもこの中のどっかにいる訳か……そりゃ、避けようとするわな)
さすがに気の毒に思うカカオだったが、見なかったことにするべきかと思いつつ女装姿が気にならないかと言われれば嘘になる。
「おじちゃんとパパくらいだよ、ここで笑ってるの。奥のひとなんかめちゃめちゃ悲惨なことになってるじゃん」
と、王の姪であるモカが廊下の突き当たりにあるひときわ大きな絵を見やる。
明るいオレンジの髪に同色のつけ毛でふわっと女性らしい髪型を作っているがそれだけで、縦にも横にも立派な熊を思わせる巨躯に無理に着せた派手で大胆なドレスも男らしい顔に施された全体的に濃いめの化粧も威嚇の意味合いでもあるんだろうかとさえ思える。
彼も豪快な笑顔で描かれているのだが、よく見るとひきつったそれはいわゆるやけくそというやつだった。
「彼は初代犠牲者で面白いからという理由で優勝したブオル騎士団長だね。クローテ、君の曾祖父にあたる人物だ」
「……はい」
「えぇ!? に、似てねえ!」
王の言葉に思わずカカオは渋い顔をする華奢な美人と絵の中の怪物を交互に見た。
「暁の荒熊と呼ばれた武勇の人物……ひとたび戦場に赴けば荒々しく牙を剥く反面、普段は明るく気さくで優しいひとだったと曾祖母から聞いています」
「すっげえな、それ。英雄じゃねえか、お前のひいじいさん」
「亡くなった時も大量発生した魔物から人家を護るため、自分の身を盾にしたという話だからな」
人は見た目によらねえもんだな、とカカオは壁の絵を見上げるが、そもそもこの女装姿でなければそれらしい人物なのかもしれない、などと考えていると……
「そう、ここには英雄が沢山いるんだ」
英雄王がそう言いながら、ゆっくりとした足取りで廊下を歩きいくつかの絵画を指で示す。
「ここにいるデュラン……デュランダル騎士団長も、オグマさんも、スタード教官も、僕も、二十年前の災厄で戦った仲間の一人だ」
じっと話に聞き入る三人に、けど、と王は続けた。
「他の騎士達だって、その剣で何かを救ってる。その“何か”にとって、彼等は英雄だよ」
「ここは思い出に浸れて、元気を貰える。僕の好きな場所さ」とひどく懐かしげな横顔で王は語る。
そんな彼にカカオ達が釘付けになっている時だった。
「……んで、よくわかんないんだケド、おじちゃんに何か用があったんじゃないの?」
「あっ!」
一歩引いたモカの一言で、三人は我に返った。
『まったく、目的を忘れないでよね……』
「あれ、そこのちっちゃいのはランシッドかい? どうしたんだい、その姿?」
『いろいろあったんだよ、いろいろね』
ずっと黙ってメリーゼの肩にいたランシッドは、緊張感のまるでない状況に呆れて大きく息を吐き出すのだった。
「ここにある絵ってもしかしてみんな……」
「先代の王で僕の祖父が思い付きで始めて以来、すっかり伝統になってね。毎年恒例の騎士団女装コンテスト」
そして、この一言で騎士団所属のクローテが必死にカカオ達を制止しようとしていた理由も察した。
クローテはプライドが高く、そして美人とも言えるほどの女顔であることを気にしている。
女性と間違えて言い寄ってきた男に長い睫毛を伏せた冷たい眼差しを向け、問答無用で蹴りをお見舞いしたくらいにはその手の話は禁句なのだが……よりにもよって王が相手では、話題を止めることは叶わなかった。
(クローテもこの中のどっかにいる訳か……そりゃ、避けようとするわな)
さすがに気の毒に思うカカオだったが、見なかったことにするべきかと思いつつ女装姿が気にならないかと言われれば嘘になる。
「おじちゃんとパパくらいだよ、ここで笑ってるの。奥のひとなんかめちゃめちゃ悲惨なことになってるじゃん」
と、王の姪であるモカが廊下の突き当たりにあるひときわ大きな絵を見やる。
明るいオレンジの髪に同色のつけ毛でふわっと女性らしい髪型を作っているがそれだけで、縦にも横にも立派な熊を思わせる巨躯に無理に着せた派手で大胆なドレスも男らしい顔に施された全体的に濃いめの化粧も威嚇の意味合いでもあるんだろうかとさえ思える。
彼も豪快な笑顔で描かれているのだが、よく見るとひきつったそれはいわゆるやけくそというやつだった。
「彼は初代犠牲者で面白いからという理由で優勝したブオル騎士団長だね。クローテ、君の曾祖父にあたる人物だ」
「……はい」
「えぇ!? に、似てねえ!」
王の言葉に思わずカカオは渋い顔をする華奢な美人と絵の中の怪物を交互に見た。
「暁の荒熊と呼ばれた武勇の人物……ひとたび戦場に赴けば荒々しく牙を剥く反面、普段は明るく気さくで優しいひとだったと曾祖母から聞いています」
「すっげえな、それ。英雄じゃねえか、お前のひいじいさん」
「亡くなった時も大量発生した魔物から人家を護るため、自分の身を盾にしたという話だからな」
人は見た目によらねえもんだな、とカカオは壁の絵を見上げるが、そもそもこの女装姿でなければそれらしい人物なのかもしれない、などと考えていると……
「そう、ここには英雄が沢山いるんだ」
英雄王がそう言いながら、ゆっくりとした足取りで廊下を歩きいくつかの絵画を指で示す。
「ここにいるデュラン……デュランダル騎士団長も、オグマさんも、スタード教官も、僕も、二十年前の災厄で戦った仲間の一人だ」
じっと話に聞き入る三人に、けど、と王は続けた。
「他の騎士達だって、その剣で何かを救ってる。その“何か”にとって、彼等は英雄だよ」
「ここは思い出に浸れて、元気を貰える。僕の好きな場所さ」とひどく懐かしげな横顔で王は語る。
そんな彼にカカオ達が釘付けになっている時だった。
「……んで、よくわかんないんだケド、おじちゃんに何か用があったんじゃないの?」
「あっ!」
一歩引いたモカの一言で、三人は我に返った。
『まったく、目的を忘れないでよね……』
「あれ、そこのちっちゃいのはランシッドかい? どうしたんだい、その姿?」
『いろいろあったんだよ、いろいろね』
ずっと黙ってメリーゼの肩にいたランシッドは、緊張感のまるでない状況に呆れて大きく息を吐き出すのだった。