25~流星、閃く時~

 カカオ達が元の時代に帰ってくると、辺りは真っ暗……というか、ランシッドが作り出した異空間の中だった。

「よっ、おかえり」

 けろっとした様子の壮年騎士、デューが彼らを迎える。
 転移する時には彼の体を覆い始めていた黒い皮膚も、今はすっかり消えている。
 アングレーズとモカ、それに水辺の乙女も安堵の表情を浮かべていて、無事やり遂げたのだと実感できた。

「よかった……」
「んー、やっぱ思い出せねーけど、たぶんお前らがオレを止めてくれたんだよな?」

 顎髭をいじりながら尋ねるデューは、ランシッドが頼んだ通りそこだけ記憶を失ったままのようだ。
 まあ、今なら思い出してもさほど問題なさそうだが……

「そのまま忘れていてください。今度手合わせした時に試したいことがあるので」
「? お、おう」

 首を捻るデューに、次は負けませんから、と微笑むメリーゼ。
 僅かな間に過去で何があったのだろうか、その笑顔がこれまでとはまた違って、一段と魅力的に思えて、

「……母親に似て、ますますいい女になったなあ」

 さらっと呟き、一同をざわつかせた。

「なっ、デューさん、まさかメリーゼのことっ……!?」
『ふざけんなてめぇデュラ公ォ! うちのメリーゼをやらしい目で見るんじゃねえぞゴルァ!』
「キャラ崩壊してんぞ、お父様」
『お前に父と呼ばれる筋合いはなぁい!』

 混乱するカカオと過剰反応するランシッドをよそに、

「パパの“いい女”発言はあいさつとか呼吸みたいなもんだから、いちいち反応してたらもたないんだケド」
「そうよねぇ?」

 モカとメリーゼは慣れた様子で「ねー」と頷き合う。

「それはそれでなんというか……フケツでござるな」
「いいと思ったら素直に口に出すのは大事なんだぜ?」
「にゃっ、開き直った!」
「ははは、フケツとかお前の親父に言われ慣れてるからな!」

 そんな感じでカカオ達が帰るなり一気に賑やかになった、暗い暗い異空間。
 ちょっと前まで時空干渉によっていろいろ脅かされていたというのに、今はもうその影も見当たらない。

『デューも元に戻ったし空間を戻した方がいいのではと思ったのですが……騒がしくて宿屋に迷惑ですね。もう少しこのままでいましょうか』
『うふふ、そうですね』

 水精霊と風精霊はやや遠巻きに彼らを眺め、ふっと笑いあう。

 彼女達の表情はひとつの平穏を取り戻したがゆえの、心からのものだった。

4/5ページ
スキ