25~流星、閃く時~
カシャン、カシャンと氷が地面に落ちていく中、佇む少女。
魔物化が解けて倒れたデュランダルはそんな光景を、薄れ行く意識の中でぼんやりと見つめていた。
取り憑かれるまま暴走してはいたが、先程までの戦闘ははっきりと覚えている。
「……いい女、だ……」
その言葉にぎょっと目を見張ったのは言われた本人ではなく、カカオ。
当のメリーゼはというと一瞬きょとんとしたものの、すぐに困ったように笑い、
「じきに、もっと素敵な女性とめぐり逢えますよ」
だから、おやすみなさい。
眠りに落ちるデュランダルにそっと告げて、仲間達に向き直った。
「ふう、なんとかなりましたね」
「って、なんだよあのすげえ動き!」
「いつの間にあんな技を覚えたんだ!?」
幼馴染みの二人が次々に詰め寄るが、答えは返ってこない。
何故なら……
「静けさを取り戻してくれたのは、あなたがたですか」
あ、とガレが声をあげた。
気配もなく現れた金色の獣……カッセとはまた違う、四つ足の聖依獣がカカオ達の前に姿を見せたからだ。
(こいつは、昔モラセス王の前に現れたやつ……なのか?)
ブオルはこの時代に来る前に一度だけ、聖依獣を見たことがある。
若き日のモラセス王と聖依獣の少女カミベルの淡い恋の終わりに、結界の巫女という運命を背負ったカミベルを迎えに来たのが金色と銀色の聖依獣だった。
そのことを口にすればややこしくなりそうなので、この場では黙ることにしたのだが。
「……奇妙な取り合わせですね。人間、狭間の民、それに精霊が共にいるなんて」
『ちょっとワケありでね……詳しくは言えないけど』
「事情があるのですね。わかりました」
獣はそれ以上問い質すことはせず、倒れているカッセ、そしてデュランダルに順々に視線を送る。
「カッセを助けてくださり、ありがとうございます。それにしても、人間が魔物になってしまうなど……」
「な、なあ、この二人はこれからどうなるんだ?」
カカオが恐る恐る尋ねると、金の獣はしばし考え、
「デュランダルと呼ばれていた青年にはそれなりの罰を与えましょう。カッセは……彼に襲われた時の記憶を消しておいた方が良さそうですね」
穏やかで優しげな女性のような声で、そう返した。
「罰……」
「と言っても痛めつけたり、まして命を取る訳ではありませんよ。それに、しばらくしたらちゃんと元に戻してあげます」
彼女の言う“罰”の内容は、未来から来た彼らにとっては既に知っている話だった。
名前も、過去も、本来の姿もなくした子供の体で世界を旅する……“デュー”になるのだ。
『あの……コイツも、俺達と会ったこと忘れておいて貰いたいんだけど。できれば、うんと厳重に』
後に騎士団長になるデュランダルにとって部下であるメリーゼやクローテは、この時代で接触があっては特にまずいだろう。
「ええ、わかりました」
『助かる。じゃあみんな、帰るよ!』
もとの時代に転移するため、聖依獣の視界からそそくさと去っていくランシッド達。
やがて山の主である金色の獣にも、その行き先は知れないものとなった。
(……聖依獣が人間の前から姿を消して久しい今、人と聖依獣の狭間の民はずっと生まれていないはず……それに、見覚えのある者もいましたね)
彼女はなんとなくだが、カカオ達の異質さに気付いていたようだ。
とはいったものの、それ以上は踏み込むつもりはないらしく、そっと傍観者の位置に戻るだけ。
「さて、これから何が起きるのでしょう……ふふふ」
ふわふわの尻尾をゆったりと振りながら、足元で眠る青年の顔をもう一度覗き込む。
「へへ、強ぇ美人は最高だぜ……」
呑気な寝言、満足そうな寝顔は、この先自らの身に降りかかる出来事など微塵も想像していないものであった。
魔物化が解けて倒れたデュランダルはそんな光景を、薄れ行く意識の中でぼんやりと見つめていた。
取り憑かれるまま暴走してはいたが、先程までの戦闘ははっきりと覚えている。
「……いい女、だ……」
その言葉にぎょっと目を見張ったのは言われた本人ではなく、カカオ。
当のメリーゼはというと一瞬きょとんとしたものの、すぐに困ったように笑い、
「じきに、もっと素敵な女性とめぐり逢えますよ」
だから、おやすみなさい。
眠りに落ちるデュランダルにそっと告げて、仲間達に向き直った。
「ふう、なんとかなりましたね」
「って、なんだよあのすげえ動き!」
「いつの間にあんな技を覚えたんだ!?」
幼馴染みの二人が次々に詰め寄るが、答えは返ってこない。
何故なら……
「静けさを取り戻してくれたのは、あなたがたですか」
あ、とガレが声をあげた。
気配もなく現れた金色の獣……カッセとはまた違う、四つ足の聖依獣がカカオ達の前に姿を見せたからだ。
(こいつは、昔モラセス王の前に現れたやつ……なのか?)
ブオルはこの時代に来る前に一度だけ、聖依獣を見たことがある。
若き日のモラセス王と聖依獣の少女カミベルの淡い恋の終わりに、結界の巫女という運命を背負ったカミベルを迎えに来たのが金色と銀色の聖依獣だった。
そのことを口にすればややこしくなりそうなので、この場では黙ることにしたのだが。
「……奇妙な取り合わせですね。人間、狭間の民、それに精霊が共にいるなんて」
『ちょっとワケありでね……詳しくは言えないけど』
「事情があるのですね。わかりました」
獣はそれ以上問い質すことはせず、倒れているカッセ、そしてデュランダルに順々に視線を送る。
「カッセを助けてくださり、ありがとうございます。それにしても、人間が魔物になってしまうなど……」
「な、なあ、この二人はこれからどうなるんだ?」
カカオが恐る恐る尋ねると、金の獣はしばし考え、
「デュランダルと呼ばれていた青年にはそれなりの罰を与えましょう。カッセは……彼に襲われた時の記憶を消しておいた方が良さそうですね」
穏やかで優しげな女性のような声で、そう返した。
「罰……」
「と言っても痛めつけたり、まして命を取る訳ではありませんよ。それに、しばらくしたらちゃんと元に戻してあげます」
彼女の言う“罰”の内容は、未来から来た彼らにとっては既に知っている話だった。
名前も、過去も、本来の姿もなくした子供の体で世界を旅する……“デュー”になるのだ。
『あの……コイツも、俺達と会ったこと忘れておいて貰いたいんだけど。できれば、うんと厳重に』
後に騎士団長になるデュランダルにとって部下であるメリーゼやクローテは、この時代で接触があっては特にまずいだろう。
「ええ、わかりました」
『助かる。じゃあみんな、帰るよ!』
もとの時代に転移するため、聖依獣の視界からそそくさと去っていくランシッド達。
やがて山の主である金色の獣にも、その行き先は知れないものとなった。
(……聖依獣が人間の前から姿を消して久しい今、人と聖依獣の狭間の民はずっと生まれていないはず……それに、見覚えのある者もいましたね)
彼女はなんとなくだが、カカオ達の異質さに気付いていたようだ。
とはいったものの、それ以上は踏み込むつもりはないらしく、そっと傍観者の位置に戻るだけ。
「さて、これから何が起きるのでしょう……ふふふ」
ふわふわの尻尾をゆったりと振りながら、足元で眠る青年の顔をもう一度覗き込む。
「へへ、強ぇ美人は最高だぜ……」
呑気な寝言、満足そうな寝顔は、この先自らの身に降りかかる出来事など微塵も想像していないものであった。