24~はじまりの場所で~
――全てのはじまりは、この山奥。
記憶を失い、子供の姿になって倒れていた少年を少女が見つけたことからだった。
しかし……
モット暴レタイ。
敵ハ、獲物ハドコダ。
魔物に取り憑かれ凶暴化した騎士の青年は聖依獣達にはおさえきれず、倒れ伏す彼らを見下ろし、なおも暴走は止まらない。
運命に導かれるように何も知らない少女がこの道を通りかかるまで、あと僅か。
赤く濡れた凶刃は、より鋭く研ぎ澄まされて……――
「! うっ……」
二十年ほど遡った過去、シブースト村近くの山の中。
仲間達と山道を進んでいたメリーゼは、突如意識に割り込んできた映像に額を抑えて呻いた。
「大丈夫か、メリーゼ!」
「え、ええ、いつものですから」
時空の精霊であるランシッドと共にいる時間が長いせいか、時空転移をするようになってから、彼女はよく“干渉された結果の未来”を視ては残酷な結末に苦しめられていた。
心なしか無理があるような笑顔を作って返すメリーゼの細い手首を、カカオがすかさず掴む。
「いつものとか言ったって辛いもんは辛いだろ。あんま無理すんな」
「あ……ありが、とう」
冷えきった手を自分の胸に押し当てて、体温と鼓動で安心させて。
何の下心もなくごく自然にそんなことをやってのけて娘を落ち着かせてくれたカカオを無闇に怒る気にはならず、ランシッドは複雑そうな顔をした。
『落ち着いたら先に進むよ。ここはデューとミレニアが出会った、英雄達の旅のはじまりの場所……といっても、俺はこの冒険も終盤ぐらいに仲間入りしたから、話に聞くだけなんだけどね』
「はじまりの場所、か……」
自分と妻のはじまりの場所は戦場だったっけか。
ブオルがそんなことに思いを馳せていると、前方に黒い人影を発見する。
すらりとした長身の、青年騎士のようだった。
しかしその頭部のほとんどは黒く硬化した魔物の皮膚が兜よろしく覆っており、隙間からのぞくフロスティブルーの髪ぐらいでしか“彼”であることを確認できる要素がない。
「ほんとうに、デュランダル騎士団長なの……?」
と、そんな時だった。
デュランダルの足元に横たわる、見覚えのある覆面と頭巾の少年……正確には、子供と見紛う小柄な二足の聖依獣に気付き、ガレが息を詰まらせる。
「ちち、うえ……」
ガラン、と愛用のブーメランを取り落とした音が響き渡る。
するとこちらに気付いたデュランダルが、ゆっくりと振り向いた。
「あ? お前らはなんだ?」
個を塗り潰されたような黒い仮面で、表情は露出した口許でわかる程度だった。
いきなり現れたカカオ達を妙に思うデュランダルだったが、聖依獣の面影を強く残すガレの容姿を見ると、ひとり合点して口の端をつり上げる。
「……お前も聖依獣か。ならコイツの仲間だな? だったら……」
ニタニタした笑みを浮かべ、低く大剣を構える黒騎士。
「こいつは……チビすけがいなくて良かったかもな」
「ああ。親父さんのこんな姿、キツすぎるぜ……」
ブオル、カカオがそう口にすると武器を握る手に力をこめる。
「デュランダル……さん! 正気に戻ってください!」
いつものように騎士団長と言いかけたクローテは慌てて訂正しつつ呼び掛けるが、
「うるせーな。まだまだ暴れたりねーんだよ……かかってきやがれ!」
もはや耳を貸すそぶりもなく、デュランダルは大剣を振り回す。
その姿は民を守る騎士などではなく、力に溺れ理性を手放した“化物”であった。
記憶を失い、子供の姿になって倒れていた少年を少女が見つけたことからだった。
しかし……
モット暴レタイ。
敵ハ、獲物ハドコダ。
魔物に取り憑かれ凶暴化した騎士の青年は聖依獣達にはおさえきれず、倒れ伏す彼らを見下ろし、なおも暴走は止まらない。
運命に導かれるように何も知らない少女がこの道を通りかかるまで、あと僅か。
赤く濡れた凶刃は、より鋭く研ぎ澄まされて……――
「! うっ……」
二十年ほど遡った過去、シブースト村近くの山の中。
仲間達と山道を進んでいたメリーゼは、突如意識に割り込んできた映像に額を抑えて呻いた。
「大丈夫か、メリーゼ!」
「え、ええ、いつものですから」
時空の精霊であるランシッドと共にいる時間が長いせいか、時空転移をするようになってから、彼女はよく“干渉された結果の未来”を視ては残酷な結末に苦しめられていた。
心なしか無理があるような笑顔を作って返すメリーゼの細い手首を、カカオがすかさず掴む。
「いつものとか言ったって辛いもんは辛いだろ。あんま無理すんな」
「あ……ありが、とう」
冷えきった手を自分の胸に押し当てて、体温と鼓動で安心させて。
何の下心もなくごく自然にそんなことをやってのけて娘を落ち着かせてくれたカカオを無闇に怒る気にはならず、ランシッドは複雑そうな顔をした。
『落ち着いたら先に進むよ。ここはデューとミレニアが出会った、英雄達の旅のはじまりの場所……といっても、俺はこの冒険も終盤ぐらいに仲間入りしたから、話に聞くだけなんだけどね』
「はじまりの場所、か……」
自分と妻のはじまりの場所は戦場だったっけか。
ブオルがそんなことに思いを馳せていると、前方に黒い人影を発見する。
すらりとした長身の、青年騎士のようだった。
しかしその頭部のほとんどは黒く硬化した魔物の皮膚が兜よろしく覆っており、隙間からのぞくフロスティブルーの髪ぐらいでしか“彼”であることを確認できる要素がない。
「ほんとうに、デュランダル騎士団長なの……?」
と、そんな時だった。
デュランダルの足元に横たわる、見覚えのある覆面と頭巾の少年……正確には、子供と見紛う小柄な二足の聖依獣に気付き、ガレが息を詰まらせる。
「ちち、うえ……」
ガラン、と愛用のブーメランを取り落とした音が響き渡る。
するとこちらに気付いたデュランダルが、ゆっくりと振り向いた。
「あ? お前らはなんだ?」
個を塗り潰されたような黒い仮面で、表情は露出した口許でわかる程度だった。
いきなり現れたカカオ達を妙に思うデュランダルだったが、聖依獣の面影を強く残すガレの容姿を見ると、ひとり合点して口の端をつり上げる。
「……お前も聖依獣か。ならコイツの仲間だな? だったら……」
ニタニタした笑みを浮かべ、低く大剣を構える黒騎士。
「こいつは……チビすけがいなくて良かったかもな」
「ああ。親父さんのこんな姿、キツすぎるぜ……」
ブオル、カカオがそう口にすると武器を握る手に力をこめる。
「デュランダル……さん! 正気に戻ってください!」
いつものように騎士団長と言いかけたクローテは慌てて訂正しつつ呼び掛けるが、
「うるせーな。まだまだ暴れたりねーんだよ……かかってきやがれ!」
もはや耳を貸すそぶりもなく、デュランダルは大剣を振り回す。
その姿は民を守る騎士などではなく、力に溺れ理性を手放した“化物”であった。