22~英雄《ヒーロー》~
圧倒的な力の差の前に追い詰められ、倒れたクローテを抱えて絶体絶命といった状況のガレが見た“希望”。
水の精霊を伴った騎士の背中は、彼にとって見覚えのあるものだった。
「カッセ……父上の名、水の大精霊、それに“デュー”……間違いない、英雄の一人にして王都騎士団長デュランダル・ロッシェ……!」
「カッセが父上って、お前……まあいいや、今は目の前のヤツを追い払うだけだ」
ガレの言葉にデューは僅かに目を丸くするが、すぐにテラに向き直り、身の丈近くある剣を構えた。
と、
「英雄、エイユウ……! アタシの“物語”の邪魔者ッ……!」
デューの……“英雄”の登場に、テラはさらに不快をあらわにして黒い光を掲げた両腕に力をこめる。
「ヒーローなんて大層なモンじゃないが、とりあえずこの場はこいつらのヒーローってヤツだな」
「うるさい! 消えろォォォォッ!」
バチバチと音を立て、人ひとりくらい平気で消し飛ばしそうなそれがデューに向かって投げつけられた。
「!」
幅広の剣の腹が、黒い光を受け止める。
衝撃で踏ん張ったデューの両足が砂地にめり込むが、そこをさらに力を入れ、
「……っでぇぇぇぇぇぇい!」
跳ね返して、どこか空の彼方へと吹っ飛ばす。
「へっ、どんなもんだ!」
「す、すごい……」
自分ではまるで歯が立たなかったテラの攻撃を受け流せて見せた英雄の力を目の当たりにして、ガレはぽかんと口を開けた。
テラはというと、驚きと怒りに目を見開いていたが、やがてひとつ息を吐くとまた元の道化師の顔へと戻った。
「あっそう……ま、分身じゃまあこんなものね。様子見ができたし、今日のところは引き下がるか」
「分身……本物じゃねえってことかよ、なめやがって」
「あらぁ、アタシが本当にこの世界に降り立ったらあっという間に終わっちゃうわよぉ……次は必ず潰すから」
余裕たっぷりにそう言って、テラの分身は消えていく。
彼女の気配が完全に消え、辺りに静寂が戻ると、ガレは長い長い溜め息と共に脱力した。
「た、助かったでござるぅー」
「あの余裕は実力のほんの一部でしかなかったからか……あんな化け物相手によくもちこたえたよ。上出来だ」
と、その瞬間デューの手にしていた大剣の刃にピシリと亀裂が走り、粉々に砕けてしまう。
「にゃっ!?」
「はは、ハッタリきかしといて良かったぜ……あのまま帰られなかったらヤバかった」
「ひ、ひえぇ……」
本当に危機一髪だったことを知ったガレの黒い猫耳がぺたんと下を向く。
「……それよりお前、カッセの息子っつったな? あいつの子供にはガレっていうチビしかいなかったはずだが」
まさか隠し子……などと、それにしたって大きすぎるガレをまじまじと見つめるデューに、水精霊がふわりと寄り添い、
『未来から来たのでしょう。先日オアシスで話しているのを聞きました』
「え、いつの間に? オレ聞いてねーぞ?」
『私はアラカルティアの水と共に在る水の大精霊“水辺の乙女”ですから』
オアシスの水場で聞き耳を立てていました、なんてしれっと言ってのけるのだった。
水の精霊を伴った騎士の背中は、彼にとって見覚えのあるものだった。
「カッセ……父上の名、水の大精霊、それに“デュー”……間違いない、英雄の一人にして王都騎士団長デュランダル・ロッシェ……!」
「カッセが父上って、お前……まあいいや、今は目の前のヤツを追い払うだけだ」
ガレの言葉にデューは僅かに目を丸くするが、すぐにテラに向き直り、身の丈近くある剣を構えた。
と、
「英雄、エイユウ……! アタシの“物語”の邪魔者ッ……!」
デューの……“英雄”の登場に、テラはさらに不快をあらわにして黒い光を掲げた両腕に力をこめる。
「ヒーローなんて大層なモンじゃないが、とりあえずこの場はこいつらのヒーローってヤツだな」
「うるさい! 消えろォォォォッ!」
バチバチと音を立て、人ひとりくらい平気で消し飛ばしそうなそれがデューに向かって投げつけられた。
「!」
幅広の剣の腹が、黒い光を受け止める。
衝撃で踏ん張ったデューの両足が砂地にめり込むが、そこをさらに力を入れ、
「……っでぇぇぇぇぇぇい!」
跳ね返して、どこか空の彼方へと吹っ飛ばす。
「へっ、どんなもんだ!」
「す、すごい……」
自分ではまるで歯が立たなかったテラの攻撃を受け流せて見せた英雄の力を目の当たりにして、ガレはぽかんと口を開けた。
テラはというと、驚きと怒りに目を見開いていたが、やがてひとつ息を吐くとまた元の道化師の顔へと戻った。
「あっそう……ま、分身じゃまあこんなものね。様子見ができたし、今日のところは引き下がるか」
「分身……本物じゃねえってことかよ、なめやがって」
「あらぁ、アタシが本当にこの世界に降り立ったらあっという間に終わっちゃうわよぉ……次は必ず潰すから」
余裕たっぷりにそう言って、テラの分身は消えていく。
彼女の気配が完全に消え、辺りに静寂が戻ると、ガレは長い長い溜め息と共に脱力した。
「た、助かったでござるぅー」
「あの余裕は実力のほんの一部でしかなかったからか……あんな化け物相手によくもちこたえたよ。上出来だ」
と、その瞬間デューの手にしていた大剣の刃にピシリと亀裂が走り、粉々に砕けてしまう。
「にゃっ!?」
「はは、ハッタリきかしといて良かったぜ……あのまま帰られなかったらヤバかった」
「ひ、ひえぇ……」
本当に危機一髪だったことを知ったガレの黒い猫耳がぺたんと下を向く。
「……それよりお前、カッセの息子っつったな? あいつの子供にはガレっていうチビしかいなかったはずだが」
まさか隠し子……などと、それにしたって大きすぎるガレをまじまじと見つめるデューに、水精霊がふわりと寄り添い、
『未来から来たのでしょう。先日オアシスで話しているのを聞きました』
「え、いつの間に? オレ聞いてねーぞ?」
『私はアラカルティアの水と共に在る水の大精霊“水辺の乙女”ですから』
オアシスの水場で聞き耳を立てていました、なんてしれっと言ってのけるのだった。